第4話 お金の神様【ゴールデン・ワールド】

『ぐぁああああ!!』


 満を持して登場した巨大コインチョコレート兵だったが、なんか蹴り一発で終わった。

 巨大な盾と武器を備えてんだから普通に強いかと思いきや、ライダーキックを放ったらそのまま盾を貫通、胴体も木っ端微塵になり−−特大のチョコ花火になった。


 なんとも肩透かしな展開だったが、濃厚なイチゴチョコを存分に味わえたのでよしとしよう。

 てかそんなことよりも、脳内に何か変な文字が浮かんでいるが……これは一体??


「気づいたかしら?」


 待ってましたと言わんばかりの得意げな声で、背中に乗ってるエリスが話しかけてくる。


「自分の今の能力や変化を脳内で見れるようにしてあげたわよ。これならわかりやすいでしょ?」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 名前:デウス

 身長:205cm

 体重:118kg

 種族:なんか変な鳥

 戦技:ダチョウキック

 魔法:なし

 技能:なし

 好物:甘いもの

 苦手:辛いもの

レベル:3


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「おーありがたい……いや、変な鳥ってなんだ。ダチョウって書いてくれダチョウと」

「おっとそうだったわね、あとで訂正しておくわ」


 エリスのおかげで自分の能力をわかりやすく確認できるようになった。これは非常に助かる。

 しかも脳内で見れるから他人に覗かれる心配もない。


 ただ−−なぜ苦手なものまでバレてるんだ? 辛いの苦手だわ〜って別に言ってないんだけど……ちょっとこわ。


「……ん? おれはまだLv3なのか、伸び代ありまくりじゃん」

「中々の有望株ね。Lv20くらいで種族的に進化できるんじゃない?」

「◯ケモンかよ。え、てか進化するの?」

「するわよ。−−熊が突然キメラになったり、ライオンが空飛ぶ魚になったり、ウサギが異形の天使みたいな形状になったりとか」

「それは進化なのか……? 恐ろしい突然変異としか思えないけど……え、やだよおれ、そんな原型がない姿に変わるの……進化キャンセルできる?」

「多分大丈夫でしょうけど、まぁできなかったらできなかったで……残念でしたって感じで」

「い、嫌すぎる……それならダチョウのままがいい」


 なんということか。

 得られる経験値によって姿形が変わることがあるとは。

 かっこよく進化するとか、シンプルに体や羽が大きくなるなら大歓迎だけど、ライオン→空飛ぶ魚なんて勘弁だぞ? そんなことで空飛ぶ夢を叶えたくはない。


「ちなみに魚に変わったライオンは、地上じゃ生きていけなかったみたいですぐに死んじゃったとか」

「おい、さらに恐怖を煽らないでくれ。震えが止まらん」


 などとエリスと話していると、助けた住民の1人−−金ピカのスーツっぽい服に身を包んだ人がこっちに近づいてきた。


『あ、あの助けていただいてありがとうございます! 私はこのゼニゼニ村の村長ゼニータと申します!』


 名前までゼニに囚われているのか……と、少し同情の気持ちが湧いたが、表情には出さず紳士的に振る舞った。


「気にしないでください、おれはチョコが食べたかっただけですから。これで村が救われたならよかったです」

『おおなんと慈悲深い鳥様……このようなお方がおられるとは!』


 目に$のマークを浮かべながら何度も頭を下げてきた。

 エリスが金にしかほぼ興味がない哀れな人たちって言ってたけど、そこまで悪い人たちではないんじゃ?


『……ところで、資産運用にご興味はおありですか?』


 ん?


『ここゼニゼニ村は、お金のプロが住まう土地−−お金を我らに預けていただければ、僅かな期間で2倍、3倍、いやそれ以上の金額に増やすことだって容易ですよ!』


 おっとぉ……? これはちょっと、雲行きが怪しくなってきたぞ。


『そもそもお金は血液のように我らの中に美しく流れている……それにちょいとした加護を与えればあら不思議! お金同士が結合し増殖し新たな価値を生むのです……! それはあらゆる事柄に通じ、影響を与え、プラス要素を加えて戻ってくる……いわば、森羅万象のようなものです!』


「???」


『万物流転−−全てのものは絶えず変化し、止まることはしません。それは私も認めています……しかし、しかしですよ!? 変化しながら止まる−−管理者のような存在になれば、今のように苦労してお金を稼ぐ必要はないのです! 皆が平等で自由で楽しいお金儲け! 面白いお金稼ぎができるようになれば、もはやこの世界に苦しみはなくなります−−!』


「?????」


『その変革を! 革命を! 私はこの村で! この村の皆様たちと成し遂げたいのです……! 普通に暮らすだけならば、村ではなく王都に移り住み豪勢で贅沢な毎日を過ごせばいい。それはきっと幸福でしょう。苦悩も不幸もなく、楽しい日々を思い出のノートに記すことができる……。しかし、それでは足りない! 私には使命がありますから! なんとしてでもお金でお金による世界平和を成し遂げなくてはならない! そのためには! もっと多くの、莫大なお金が必要なのです! もっともっと集め、もっともっと増やし、お金の神様【ゴールデン・ワールド】様をこの世に顕現させる! そのためにも、初心の心を忘れないためにも! こうして小さな村から計画をスタートさせたのです! 慈悲深い鳥様、あなた様ならきっと! 私の思想を理解してくれますよね!??』


「…………」


 あかん。

 こいつはあかん。


 おれの中の全ての細胞が、激しい警報を鳴らしている。


 こいつはあれだ。

 一番厄介なタイプのやつだ。


 悪意はなく、善意100%で迷惑行為を働く恐ろしいやつ。


 何が悪いか、何が問題かわからないから反省も後悔も是正もしない。

 その考えのまま突っ走るだけ−−


(ちょっとエリス、この村救った意味って本当にあったの!?)


 と彼女に小声で話しかけると、


(も……も、もちろん、よっ!)


 ……なんとも歯切れの悪い返事が返ってきた。


(おいおい、なんでそんな自信なさげなんだ。ここに連れてきたのエリスだろ)

(いやだって! 数年前はまだ人間らしい感性が残ってたし、うまく扱えば資金調達には困らないかなと思えるくらい利用できそうな感じだったし!)

(……今は?)

(…………今は……もうだめね。ゴールデン・ワールドとかいう変な神様を信仰してるし、少なくとも今は関わっちゃいけない状態)

(ということは?)

(逃げましょう)


『どうされましたか!? 慈悲深い鳥様!? 何かわからないことがあればなんでも聞いてください! 理解できるまで何時間でも、いや何日でも付き合いますよ! 一緒にゴールデン・ワールド様を迎える準備をしましょう!!』


 だめだ、これ以上ここにいたら頭がおかしくなる。


「村長……」

『はい! なんでしょうか!?』

「遠慮……しておきますっ!!」


 おれは全身に力を込め、その場から大きく跳躍した。

 自分でも信じられないくらいの超ジャンプ。

 こんなにも空は自由なのか、空は青いのか−−色んな意味で自然と世界の美しさに感動しながら宙を舞った。


 下の方で村長含めゼニゼニ村の住民が何か言っていたが、もうおれの耳には入らない。

 だってこれ以上耳に入れたらマジで頭がおかしくなりそうだったから−−


 別に個人の考えや思想を否定するつもりはない。

 そこは人の自由だ。


 しかしこんなにも話が通じない、善意の塊の状態の人間に、あそこまで恐怖を抱いたのは初めてだった。

 結局人間が一番怖いという言葉があるが、思想的な意味では確かにその通りかもしれない。


 戦闘能力や特殊能力で恐ろしい存在には、きっとこの先出会うだろうけど……ゼニゼニ村の住民を上回る展開は本当に勘弁して欲しい。

 大丈夫だよね? この世界大丈夫だよな?


「一旦、ブドウジュースの湖に戻って休憩しましょうか」

「そうしよう」


 なんか色々疲れたので、ひとまずエリスと初めて会った場所に戻ることにした。


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