第2話 君と話せたことが嬉しくて
なぜこんなにもめいたんさんに惹かれるのだろう。なぜ少しでも反応してもらえるだけでこんなに胸がいっぱいになるのだろう。
「それはきっと僕のことが好き同士だからだよ!キャウッ!」
「それはそうだけど、性別と年齢も顔も性格も何も知らないのに、ここまで執着しちゃうのはどうしてだ」
うちは目の前で天使の羽をパタパタさせたパチワワを見つめて考えていた。普通のパチワワには天使の羽なんてついてないはずなのだが。
「運命ってやつだよ!人間は運命には抗えないのさ。大切にしなきゃいけない人とかってビビッとくるもんなんだよ!」
「ビビッと...」
「だからこれからその人のことをいっぱい知っていくことが大事だよ!」
パチワワがうちの顔面に飛び込んできた。意外と小さい。顔と同じくらいの大きさで息ができなくなる。苦しい──
「ッ!」
顔に何か重いものが乗っかっている。体の大半が黒くて目の上に白い眉のような模様があるもふもふの何か。それがうちの顔をぺろぺろしてくる。反射的に体を起こす。それの正体は愛犬の黒柴、のりまきだった。
のりまきを抱き抱えてベットから離れる。のりまきが起こしに来たということは今がだいたい7時だということがわかる。のりまきは毎朝7時くらいにうちを起こしに来てくれるのだ。
のりまきにご飯を与え、顔を洗い歯を磨いて部屋に戻る。
色々やっている間に、めいたんさんへの返信を忘れていたことを思い出した。
昨日はめいたんさんからの返信が嬉しすぎてキャパオーバーになり、気絶するように眠ったのだと思う。
『私も最初に投稿を見た時から絡んでみたいなって思っていたので嬉しいです』
「はわわ...」
昨日のDMを見て少し高揚している。めいたんさんの方もうちと絡みたいって思ってくれていたのか。と、とにかく返信せねば。
『返信遅くなってしまいすみません‼︎そうだったんですか!?とても嬉しいです〜』
送信。うちはしばらく返事を待つことにした。
うちはいわゆるネッ友というものがいない。できたことがない。Twitterはよく見るけど相互さんとはあまり話さない。うちのツイートにリプをくれる人もあまりいないから、うちも相互さんのツイートにリプを送ることがないのだ。ネッ友は欲しかったが自分から話しかけるのは気が引けていつもできなかった。
だから今回はホントに特例だということだ。ここまで仲良くなりたいと思ったのは同じパチワワ好きだからか?他の趣味もドンピシャで合うからか?
まだわからないけど、これから話していけばわかるのかな、と思った。
しばらくして、通知が来た。TikTokを見て暇を潰していたけれどそろそろ退屈になってきたというタイミングだった。
『ミズナさんは高校1年生なんですか?』
ミズナとはネットでのうちの名前である。「水澤春菜」といううちの名前の、ミズとナをとってミズナだ。
めいたんさんが高校1年生かと聞いてきたのは、プロフに高1だと書いてあるからそれの確認だろう。
『はい!高1の女子です〜』
返信はすぐに来た。
『そうなんですか。私は高2ですよ。女子です』
めいたんさんって女の子だったんだ。しかもうちの1つ上の学年。
『年上でしたか!全然タメで大丈夫ですよ!』
『じゃあ私タメで話すからミズナさんもタメで話して』
お、おぉ...。なんだろう、すごい積極的だな。うちは自分からグイグイいけないからすごい助かるな。
『わかった!ところで、パチワワ好きなの!!』
『好きだよー。もう1年くらい推してる』
どのくらい話しただろう。小一時間は話していた気がする。
めいたんさんについてわかったことがいくつかある。
まず、Twitterを始めたきっかけはパチワワ好きの友達がほしかったから。周りにパチワワが好きな人がいないこと。埼玉で頭いい学校に通っていることなど。
『ミズナさんはどこ住みなの?』
『うちは東京だよ。学校はごく普通のところ』
うちはホントにごく普通の偏差値の学校に通っている。うち自身普通の人間だから、それ以外に言えることはない。
『ごめん、そろそろバイトの時間だ。またね』
あと、めいたんさんはバイトをいくつか掛け持ちしているらしい。理由は教えてくれなかったけどなんとなくパチワワのグッズが欲しいのかなーなんて考えていた。
『わかった〜。またね!』
スマホをそっと閉じ、ベットにダイブする。枕に顔を埋めて唸る。
「お、うおおおおうああーー!」
今日はすごいいっぱい話せた。めいたんさんは思ってた以上に優しくて気遣いができて、所々可愛い人だった。
少し仲良くなれた気がして喜びが泡みたいに弾けていた。
『おやすみ』
その日の夜、寝る直前にちょびっとDMを送ってみた。返信が来ても見ないようにしようと考えながら布団に入り眠った。
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