まわり道のプレゼント

霜月あかり

まわり道のプレゼント

秋の風が校庭の木の葉をゆらす朝。

4年生のユウキくんは、ランドセルを背負って急いでいました。


「やばい! 朝の会に間に合わない!」


小走りで角を曲がったそのとき――。

前を歩いていた低学年の女の子が、ランドセルを落としてしまいました。

中から、ノートや色鉛筆がばらばらに転がります。


「だ、大丈夫?」

ユウキくんがかけ寄ると、女の子は泣きそうな顔でうなずきました。


「ありがとう……でも、間に合わなくなっちゃう」

「大丈夫、いっしょに拾おう」


2人で急いでノートを拾い集め、やっとランドセルを閉めたときには、もう予鈴が鳴っていました。


「ごめんね、お兄ちゃんも遅れちゃうのに……」

女の子が言うと、ユウキくんは笑いました。

「いいよ。道をまわったって、ちゃんとつながるから」


その言葉を聞いて、女の子は少しほっとしたように笑いました。


* * *


教室に駆けこむと、先生が黒板の前に立っていました。

「今日は“助け合いの日”です。みんな、どんなときに“助けてもらった”ことがある?」


クラスの中がざわざわします。

前の席のアオイくんが手を挙げました。

「この前、体操服忘れたら、友だちが貸してくれた!」

「私は、給食の牛乳をこぼしたら、となりの子がふいてくれた」


いろんな声があがる中、ユウキくんは朝のことを思い出していました。

“助ける”って、特別なことじゃない。

ちょっとの手や気持ちを貸すだけでも、きっと誰かの力になれる。


その日の放課後。

ユウキくんは下駄箱で靴を履こうとすると――ひもがほどけているのに気づきました。

「あれ、さっき結んだのにな……」


かがもうとした瞬間、手が届かないくらい重たい荷物を抱えたまま、バランスを崩しそうになります。

そのとき――。


「だいじょうぶ?」

朝の女の子が、そっとしゃがんでユウキくんのひもを結んでくれました。


「お兄ちゃん、朝助けてくれたから、こんどはわたしのばん!」


ユウキくんは目をまるくしました。

「ありがとう!」

「いいの。まわり道しても、ちゃんとつながるもんね」


2人は顔を見合わせて笑いました。

夕焼けの光が、校門の外まで続くまっすぐな道を照らしています。


風にゆれる木々が、小さく拍手をしているようでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

まわり道のプレゼント 霜月あかり @shimozuki_akari1121

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ