呪い




 誰の記憶からも消えたい。

 こんなろくでもないものがこの世の中にいるなんて、後にも先にも知られたくない。


 好いてくれてたはずの人の記憶からも、もちろん嫌っている人の記憶からも。

 でないとずっと苦しめてしまう。

 でも記憶がなければ、思い出すこともない。

 気分が落ち込むことも、腹を立てることもない。

 最初からこの世にいなかったものとして、存在していた痕跡をなくしてしまいたい。


 どうやったらできるだろう。

 忘れられたいんじゃないんだ。

 存在していなかったことになりたい。

 誰の記憶からも、どんな記録からも。


 どうして生まれてきたんだ。

 あのまま死ねばよかったのに。

 何で生き延びてしまったんだ。

 こんなにも無駄だというのに。


 半世紀以上かけて苦しむのなら、いっときの悲しみの方が負担は少ないのに。

 どうして生きる意思を示してしまった。

 どうして諦めなかった。

 そのせいで、お前は苦しめている。


 お前のせいで、手の届く人たちが、目に入る人たちが。

 後悔して苦しんでいるというのに。


 どうしてまだ生きるのか。

 どうしてまだ息をするのか。

 もうやめろ、早くいなくなれ。

 お前は所詮、苦しめるだけ。



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