息子を返してください

今日もため息をつく。

「手、熱くないの?」

息子は笑って答える

「うん、大丈夫」


熱湯に手を浸しているのに、平気な顔。

思わず手を掴んでキッチンへ連れていき、冷水をかけた。

石を握っている手も、まるで何もないかのよう。


息子は電源の入っていないテレビを見つめ、何か言いたげに口を閉じたままもごもごと動かしている。

その目はどこか遠くを見つめていて、私のことが見えていないように感じた。


夕食の席で、ポケットから小さな石を取り出し、口に入れた。

「だめ!」

息子は振り向きもせず、深呼吸をする。


息子が廊下を歩く姿は、何かを避けるように蛇行していた。

まっすぐ歩く息子をいつから見ていないんだろう。


部屋の隅でひとり、壁に話しかけている。

誰もいないのに、声に耳を傾けている。

もう無理だ、と思った瞬間、笑顔を向けられた。


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幽霊を見る方法 枕見 @makurami

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