第3話 霊魔法

 あれから数年が経った。俺は相も変わらず幽霊ライフを過ごしていた。やはりというべきか、退屈や暇という感覚はない。あっという間では無かったが長くも感じない。平凡だった。霊体になった事で感覚にズレが生じたという数年前の俺の考察は正しかったとこの身が証明し続けていた。


 とまあ俺はここ数年間無為に過ごしてきたわけだが、何もしなかったわけではない。それはこの世界に来て一番重要な問題……文字の読み書きだ。


 まず第一に、何故なのかは分からないが話している言葉は理解できる。しかしこの世界の人々が日本語を話しているというわけでもない。何故か言語が理解できるのだ。しかも俺の耳には日本語にしか聞こえないという。


 これは推測の域を出ない話だが、一応の理由をこじつける事ができる。俺がこの世界に転生したと仮定する。本当なら現地の言語は俺の耳に入る時に日本語に変換され、現地文字の読み書きも標準装備のはずだった。


 多少……いやかなり苦しいがそういうことだとすれば辻褄は合っている、はず?


 話が脱線したが、俺が言いたいのは現地文字を理解しなければ俺はこの世界の情報を得にくいという事だ。そしてここからが本題。


 俺もただダラダラしていたわけではない。この世界の言語について勉強していたのだ。カインのおべんきょうに乗じてな!!


 お陰で今の俺は、この世界の言語(言語名は知らないし地方の方言やこの国特有の言語なのか世界共通なのかも知らない)の読み書きが出来るようになったというわけだ。


「ゆうれい、なにしてるの?」


 俺が現状整理をしていると下の方から声が聞こえてきた。カインだな。あ、そうそうカインは五歳になった。今では毎日のように元気いっぱいに家中走り回っている。それで俺を見つけると話しかけてくる。今も空中で胡座をかき瞑目している俺を見つけて話しかけてきたみたいだ。


『よっカイン。あんま俺に話しかけると親御さんが頭を悩ませちゃうぞ?うちのコは何かの呪いにかかってるかも〜なんて』

「でもボクはゆうれいとあそびたいよー。むしなんてゆうれいがかわいそうだよ」


 カインの何気ない一言に目頭が熱くなる。なんっていい子なんだ!俺と遊べることなんて限られてるのに遊びに誘ってくれるし!!


『少し待っててくれ。

「ほんと!?やった!!かんせいすればおかあさんもおとうさんもこまらないんだよね!?」

『ああ、楽しみに待ってろよ』

「うん!!」


 そういうとカインは再び駆け出して行った。その少し後にマーガレットのカインを叱る声が聞こえてきた。俺はそれをBGMにしながら再び目を閉じた。……ちなみにゆうれいという呼び名は、カインに名前を聞かれた時に適当に幽霊とでも呼んでくれといった結果だ。今では本名か適当にでも偽名を名乗るかしといたほうが良かったなと後悔している。幽霊って種族名みたいだから、人間に置き換えると「おい、人間」と呼ばれてる感じがしてモヤモヤする。……まぁ、そんなのは過ぎた事、今更気にしてもしょうがない。それよりもだ。


『さて、始めるか!!』


 カインにしか聞こえないのをいいことにまあまあの声量で特訓開始を宣言した俺は、二階の物置部屋まで一階の天井と二階の床を透過して最短距離で到着した。二階の物置部屋はその名の通り空き部屋に荷物をまとめておいてある場所だ。日中の間、カインとマーガレットは一階にいることが多いし、二階の、それも物置部屋ともなれば二人が入ってくる可能性は低いだろう。……まぁ、カインにはばれたが……。


 物置部屋についた俺は早速特訓に取り掛かる。


『はぁ……!』


 俺は床に向かって思い切り念を送る。すると床がミシッと音を立てた。よし、取りあえずここまではいつも通り成功だな。次が本題だ。今度は部屋の隅に乱雑に積まれた結果崩れ落ちた分厚い本の一つに目を付けた。先ほどと同様に念を送る。だが反応はない。やはりなかなか難しいな。


 俺が今行っいるのは一言で言えば魔法の特訓だ。魔法と言ってもこの世界の魔法の技術体系とは異なると思われる。なぜなら俺は魔力とやらを知覚しておらず、代わりに悪霊が起こしそうな超常現象の一つである怨念の怨みのないバージョン、つまりはただの念を対象に向けて送っている。さらにこの魔法には現代知識、とまではいかないが俺の世界での現象を魔法としている。よって俺独自の能力である可能性が高いという訳だ。そしてその魔法名を俺は「霊魔法」と名付けた。意味はそのまま霊が起こしそうな現象を起こす力だから。


 ちなみに最初に行った「霊魔法」は「ラップ音」だ。誰もいないはずの部屋から床の軋む音が聞こえてくるとか言うアレだ。俺も詳しくは知らない。科学的に説明できるとか出来ないとからしいが、文明レベルが現代よりも低いこの世界の人々にはそれで充分だ。まぁ、この魔法の使い所は今は思いつかない。


 そして今まさに挑戦している魔法は「ポルターガイスト」だ。手を触れてないのに、物が動いたりするアレだ。これも 心霊現象の一種だし「霊魔法」に相応しい。それにこの魔法はかなり使えるはずだ。なぜなら、原理は違うとはいえ、触っていない物が動くという起こる現象は念動力のそれとあまり変わらないからだ。同じ靈の括りの「こっくりさん」も勝手に手が動くっていう現象は念動力と似たようなものだと言えるかもしれない。……とはいえ、こっくりさんに関しては念動力と言うよりかは自動書記という方が正確だ。


 それにしてもこの魔法は全く成功しないな。ラップ音は結構素直にいったのに。より多くの念を送ればいいと思っていたが何か考え方が違うのだろうか?


「うーん……」


 もういっその事直接持てないか?こう、手に念を纏いつつ……本にも全体を包むように念を送って……その念と念が触れた瞬間に念を融合させて……。させて……。


「出来ちゃったよ……」

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