令和の浦島太郎、竜宮城の口コミは星いくつ?
チャイ
5~7話
令和のある日、竜宮城から帰って来たばかりの浦島太郎は、とりあえず、スマホで竜宮城の口コミをチェックしてみました。竜宮城ではスマホが使えなかったからです。
太郎「さぁ、評判はどうかな?僕も書き込んじゃおうかな」
その5:口コミサイト編
竜宮城の口コミサイト(平均評価:★★☆☆☆)
星5|鯛子さん(職業:鯛)
乙姫様のダンス指導は最高!
毎週通ってます。真珠のカクテルは季節限定の「深海ブルー」がオススメ。
ただ、地上の方にはちょっと高く感じるかも?
でも、海の底ではこれが普通です。海底って昔から、物価は高いけど給料もいいよね。
星2|浦島太郎さん(職業:元漁師)
詳細は前回のレビュー参照。 削除されてないといいけど。
追記:ポイントカード、初回は発行されないって言われました。
乙姫様の返信、丁寧だけどテンプレ感強め。
星3|亀千人さん(職業:配達員)
施設は豪華だけど、案内が不親切。
「亀乗り放題」って亀働かせすぎって友達が言ってた。
あと、玉手箱のサイズが思ったより小さかった。
星1|地上の観光客さん(職業:会社員)
SNSで話題だったから行ってみたけど、電波が入らない。
映えスポットは多し。 食事は海藻ばっかり。鯛やヒラメの刺身食べたかった。
帰りの亀タクシー、遅延して会社に遅刻。もう行かない。
星5|乙姫様(職業:城主)本人マーク
当城は1300年以上の歴史を誇る海底の社交場です。
お客様の声を真摯に受け止め、改善に努めております。
現在、Wi-Fi導入を検討中。
玉手箱は近日中にサブスク対応予定。
乙姫様:「ほらほら、あなた達も書き込んで!」
鯛やヒラメ:「はーい、雲竜城には負けたくないもんね」
一方、天空にそびえるという雲竜城の面々はこう言っている。
竜宮城の乙姫様って見栄っ張りだよなぁ。
とりあえず、星1入れとこ。
*
その6:ホテル竜宮、電子機器はここへ編
亀:「助けていただいて、ありがとうございます。お礼に竜宮城へご案内します。
さぁ、私の背中にお乗りください」
太郎:「ありがとうございます。えーそのー、スマートフォンはどうすれば?海中で壊れてしまうと思われます」
眼鏡をかけたスーツ姿のビジネスマン浦島太郎が心配した。
亀:「私としたことが言い忘れておりました。通常の防水は私の周りにバリアのように張り巡らされるのでございますが、やはり電子機器は、相当にデリケートであるとお聞きしております。さ、この箱の中に電子機器をお仕舞ください。こちらは玉手箱と申しまして、竜宮の技術により水中の気圧や防水に配慮された箱でございます」
太郎:「なるほど、貴重品入れですね。それでは、スマホとバッテリー、時計をしまっておきます」
***
太郎は楽しい時を過ごし、地上へ戻ってきた。浜辺で亀と別れ、自宅まで電車に乗って帰ることに。
太郎:「ああ、竜宮城は楽しかったですね。大変リフレッシュできました」
車内は混雑する時間帯ではなく、座席に座ることができた。
他の乗客:「大変だ!煙が!!火事だ」
「テロかも!」
太郎の膝の上に乗せた玉手箱からモクモクと白い煙がもれて車内に流れ、あたりは騒然となった。
太郎:「一体何が?」
少し地上を離れていただけで、こんなに治安が悪化するとは恐ろしい。
消防隊や駅員、警察が駆けつけた。もしかしたら危険な薬物による煙の可能性もあるらしい。
彼らにより玉手箱のフタが開けられた。
警察:「あ~煙はモバイルバッテリーからですね。最近多いんですよ。火事にならなくてよかった」
太郎:「お騒がせして、申し訳ございません。今度からはきちんとしたバッテリーを選びます」
その7:盛り盛り玉手箱編
僕こと浦島太郎は、帰り際に玉手箱を渡され、あの亀に乗せられ浜辺へ戻り、電車に揺られ家に戻った。
はぁ、アパートの階段を上るが、なんだか体が重い、プールの授業の後みたいだ。
「でも、楽しかったなぁ。ネオンサインもレトロな竜宮城での鯛やヒラメのダンスステージも。
乙姫様もきれいだったし。あの目元のラメラメしたメイクどこのメーカーだろう?」
同棲している彼女の影響で僕は化粧に詳しい。コスメマニアの姉の影響もあるかもだけど。
「さぁ、もらった玉手箱あけてみようかな。でもやっぱりやめておこうかな」
童話では玉手箱をあけると恐ろしいことが起こる。でも僕の場合は、どうぞあけてくださいねって渡されたわけだし。問題ないよね?
恐る恐る僕はあけてみた。
「なにこれ?もしかして間違えたんじゃ?」
玉手箱の中には、メイク道具がぎっしりと詰まっていた。スキンケア系から、ガッツリメイク用品まで色々だ。ピンクの手鏡、化粧筆にラメラメパレット。
ハテナと僕は首をかしげた。
スマホの着信音が鳴った、竜宮城からだ。一応番号登録しておいたんだよね。
「もしもーし、わたし、竜宮城の亀世カメと申します。実は……」
乙姫様のそばに仕える、執事のような亀さんの顔がすぐに思い浮かんだ。
「あ、竜宮ではお世話になりました。どうしたんですか?」
「あのその、玉手箱の入れ違いが起こりまして。お渡しした玉手箱は実は乙姫様が今度売り出す、竜宮城メイク福袋だったのです」
太郎:「やっぱり!でも、すごいねこれ、おもしろいよ」
亀:「もしやお気に召されましたか、それなら、そのままお使いになられても……」
太郎:「え?いいの!彼女が喜ぶよ、ありがとね!」
亀:はぁ、なんとかトラブル処理できた。正直、本来の玉手箱もメイク福袋も似たようなものだし、まぁいっか。売れ残りの……。
※
僕はわくわくしながら、玉手箱という名の福袋を開けていった。なめらかなコーラル色のリップスティック。超微細パウダーが売りなうろこパウダー、貴重な真珠パウダー入りの化粧品など。
なんだか子供の頃、ドレッサーをあけて、母親の化粧品をそっと手に取ったことを思いだした。
化粧水のパッケージには、海の恵みで美しく。神秘の城、竜宮が長年培ってきた技術によりあなたを美の世界へいざないますと書いてある。
掌に出してつけてみる、ホントだ、肌がお風呂上りみたいにみずみずしくなった。
インスタを検索すると、乙姫メイク動画というのが、バズっているらしい。
詐欺メイクという単語も一緒に出るのが気になるが、いったん置いておこう。
メイクパレットのパッケージには、これでだませる!美しさ千倍盛り。
なかなか挑戦的な文句が躍るな、さすが竜宮城。
デコデコで、ピカピカ、うーん、あのタイとヒラメたちの妖艶メイクも思いだしてしまう。
華やかなスポットライト、明るいようでどこか青く薄暗かったあの海底のステージ、その中で光を放つあのメイク。やっぱ技術が高かったんだ。
試しにメイク動画を見て自分も下地を丹念に塗り、ファンデを重ね、おしろい、リップ。つけまつげ。リキッドチークをそっと指でつけてみる。なんか赤色が濃いな。ポンポンっと指で広げると血色がよくなった。
うん!これはいける!かわいい!
実は興味があったのだ。子供の頃ひそかに姉と一緒に赤いリップを塗ったこともある。
「かわいいじゃん!」と姉は誉めてくれたのに。
「まさかぁ、冗談!」うしろめたさですぐにティッシュで拭いてしまった。意気地なしの自分……大人になった今もずっと胸にひっかかっていた。
玉手箱をあけてよかった……あたらしい何かが開いたのだ。
ようこそと新世界が手招きしている。
手鏡を見てみよう。
そこにはまさに乙姫様のようなラメラメメイクの美人が鏡に映っていた。
僕はサンゴの手鏡ににっこりと笑いかけた。
「これに似合うネイルもしてみよっかな」
素直な自分、嫌いじゃない!
福袋な玉手箱は、びっくり箱だった。
あたらしい自分がパーンと飛び出した。
※
1~4話を収録した回もあります。読んでなくてもそれぞれ独立した話なので大丈夫です。
令和の浦島太郎、竜宮城の口コミは星いくつ? チャイ @momikan
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