第18話 二回目の襲撃

 翌日、七月四日木曜日の朝。

 今日もまだ授業はお休み予定。何もなければ朝は暇だ。だから何も考えず二度寝を決め込んでいたのだったが……

『緊急放送です。道路側の窓から廊下側へ移動し、机の下等に隠れて下さい。繰り返します。廊下側へ移動し、机の下等に隠れて下さい』

 何事だ、そう思って思い出す。そう言えば先輩が言っていたなと。

 窓もカーテンも、夜のうちにしっかり閉めてある。だからとりあえず掛け布団を抱えてベッドの影、窓の反対側へ。

 地響きのような音が聞こえる。音だけでなく実際に震えている。家具が振動しているしガラスも震えている音がする。

 外で何かが潰されるような音もする。この前より大型の怪獣がやってきたような雰囲気だ。しかもここから近いような気も……

 ドドドーン! ドドドーン! ドドドーン! ドドドーン……

 爆発音らしき音が何回か聞こえる。そのたびに窓ガラスが震える。

 カーテンだけで良かっただろうか。段ボールか何かを貼っておくべきだったろうか。でも先輩達はそこまでしろとは言っていなかったな。

 ウゴオオオオオオオオオオオッ! 怪獣の咆哮らしき声が聞こえた。すぐ近くに感じる。

 大丈夫だろうか。そう思いつつベッドの影で布団をかぶって待機。

 急に静けさが襲ってきた。先程まで聞こえていた、何かを踏み潰す音も聞こえない。

 状況は終わったのだろうか。耳を澄ませ、少しでも状況を確認しようとする。

『一斉放送です。状況は終了しました。怪我をしたり部屋に損傷があった場合は、学内ネットワーク、ネットワーク機器が損壊している場合はインターホンの非常ボタンで連絡をお願いします。繰り返します……』

 この部屋はどうも、大丈夫だったようだ。

 俺は窓際へ行き、カーテンを開ける。黄土色の何かがいた。それも割と近く。学校の建物から道路を挟んだ反対側、河原の中だ。

 おそらく形は、前回の地竜と似ていたのだろう。今は焦げたり血が出たりした、単なる塊にしか見えない。

 それでも大きさは前の奴より大きい。前のがワンボックスカーくらいだとしたら、大型バス……いや、もっと大きいか。

 血の色は赤色だ。いちおうこれでも生物らしい。

 現場の状況から見て、どうやら山奥方向から学校の方へとやってきたようだ。それも川の流れている部分を中心とした谷を、両岸に生えている灌木等をガンガンに潰して歩いてきた模様。

 それにしても近い。女子寮の一番近い部分で五十メートル以下だろう。ここからだって百メートル無さそうだ。

 女子寮の方は大丈夫だろうか。この部屋でも大丈夫だったし、おそらく問題は無いと思うけれど。

 そんな事を考えた時、スマホが振動した。何かメッセージが入ったようだ。続いて更に振動。

 どうも何件か入ったようだな。そう思いつつスマホを拾い上げて見てみる。

 一通目は茜先輩だ。

『こっちは被害なし。緑も大丈夫と連絡あり。また夕方一七三〇に緑の研究室で夕食会予定』

 まあ先輩達は大丈夫だろうとは思っていたけれど、一応ほっとする。

 そしてまた夕食会か。何か新しい情報でもあるのだろうか。それとも単に顔見せ会みたいなものだろうか。

 いずれにせよ断る理由は無い。色々世話にもなっているし。だから了解の返信を打っておく。

 二通目は塩津さん。

『ちょうど私の部屋の真ん前! 怖かった! でも大丈夫。窓ガラスも無事。ちょっと話をしたいけれど大丈夫?』

 確かにそれは怖かっただろうなと思う。この距離でも充分怖かったし。

 なお俺の予定なんて勿論何もない。山奥の学校内で授業も無い状態だから。

『夕方までなら予定は無いけれど』

 メッセージを打ったらすぐ返答が来た。

『喫茶室、十時にどう?』

『わかった』

 そう打って時計を見る。現在の時間は九時四十分。ゆっくり洗面して着替えて行けばちょうどだな。それにしても何の話だろう。

 洗面歯磨きをしてひげをそった後、着替えながらカーテン越しに外を見る。

 何か色々と人が出てきている。迷彩服姿もここの制服代わりである黒い服も。

 黒い服を着ていても、必ずしも生徒という訳ではない。あの黒い服は教官や研究者も持っている。

 ところであれの調査は、どうやってやるのだろう。どこかへ運んでというのは大きすぎて無理そうだ。ある程度カットしないと運ぶ方法が無さそうだし、運び込む場所なんてのも思いつかない。

 それとも全体はあそこで検分して、あとは他で調べるのだろうか。どっちにしろ解体して持ち去らないと、腐って酷い事になりそうだ。

 そう言えば前回の怪物はどうしたのだろう。まだ学校が無いので、教官や他の生徒とも情報交換が出来ていない。

 課外活動を今日もやるなら、その時に清水谷教官に聞いてみるか。それとも既にネット等で発表されているだろうか。

 ズボンをはきながら時計を見る。いつの間にか分針が五十分を過ぎていた。

 ゆっくりしすぎた。俺は急いで服を着て、もう一度鏡を見て格好を確認してから鞄を持って外へ。

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