終焉に咲いた花 ~滅びゆく世界で、なお愛を信じた~
ボカリ
プロローグ
夜の帳が下りる頃、王都の中心に位置する酒場は、兵士たちの喧嘩じみた笑い声と酒の匂いに満ちていた。その隅には、しっぽりと酒を酌み交わす三人の兵士の姿があった。
「誰もが心から笑える日は、来るのかな」
杯に反射した灯を見つめながら、紅一点のルアナが呟いた。いつもは強気の彼女が酒のせいなのか、どこか弱々しい。
「こんな世界じゃ無理だろ」
剣士のキアは、跳ね返すように言う。
無理もない。この世界、リュミナセラドは戦争の真っ只中だ。
強大な魔力を巧みに操る魔族。
高い知能で文明を進化させる人間。
かつてこの二つの種族は、手を取り合って暮らしていた。
しかし、いつしか二種族の間に軋轢が生じ、このリュミナセラドに影を落とした。
魔族と人間の争いは泥沼化し、戦いに終止符を打つには、もはや魔王を討伐する他なかった。
だが、魔王を討伐しに行こうなどと、馬鹿げたことを言う者はいない――
「じゃあ僕たちで魔王を退治しに行こー!」
ここの一人を除いては。
寝癖がついたままのワッフルは、天真爛漫に、杯を高く掲げて叫んだ。
「はあ?ワッフル。お前馬鹿じゃないのか?」
ワッフルは顔をほんのり赤く染めて、いつもの柔らかい笑顔をさらに崩す。
「バカじゃないよ〜。だって二人とも強いもん。絶対に僕達なら魔王倒せるよ〜。余裕のよっちゃんだよ〜」
キアはこの時、こいつはマジで馬鹿なんだなと思った。
いつも物腰の柔らかいワッフルだが、酒が入るともっと柔らかくなるらしい。柔らかいを超えて溶けてしまいそうだ。
だが、キアはそんな馬鹿馬鹿しい発言を面白いと思ってしまった。
「ぷ。……はははっ!!いいじゃねえか、じゃあ俺らで魔王をぶっ飛ばしちまおうぜ」
勢いよく立ち上がり、ガッツポーズをする。ワッフルも、いこういこう!と立ち上がり、肩を組んだ。
それまで二人の様子を微笑みながら見ていたルアナは、真顔になる。
「私は行かないからね」
翌朝、キアは王に直接、ルアナとワッフルと共に魔王を討伐することを宣言した。
それを伝えると二人は青ざめた。
ワッフルは、あの時は酔った勢いで言っただけだよと焦り、ルアナは、私は行かないと言ったじゃないと怒る。
そんな二人をみて、キアは面白そうに笑った。
――数年後。ルアナは王都を崩壊寸前まで追いやった。
今にも雨が降り出しそうな曇り空の下、冷たい風がルアナの長い髪を靡かせる。
見落ろすと、人々の憎悪の眼差しが矢のように突き刺さる。
ここは処刑台。
民衆の罵声を浴びながら、ルアナはこれまでの人生を振り返っていた。
「罪人よ、最後になにか言い残したことはあるか」
そんなものは無かった。
処刑執行人の淡々とした問に答えようとしたとき、ルアナはそれまでの諦めたような表情を一変させた。その視線の先には、何かを叫びながら手を伸ばす、キアの姿があったのだ。
ルアナは目を閉じ、僅かに微笑む。
「何もかも私がやったことよ。さあ、はやく私を殺しなさい」
そして、刃が落ちた。
彼女は最後まで笑っていた。その笑みは、どこか優しかった。
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