バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件
沢田美
第1話 バイト先の先輩は、クラスの陽キャギャルだった
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮(ありま れん)です……よ、よろしくお願いします」
高校二年にして人生初のアルバイト。緊張で声が少し上ずっていた。
店長にレジまで案内され、そこに立っていた先輩へと挨拶をする。
「お! 店長、この子新人さん!? マジ助かる〜! うち今、人手足りなかったんだよ〜」
声は明るく、第一印象から距離感が近い。
白銀に近い柔らかな髪が肩で揺れ、青灰色の瞳がライトを反射してきらりと光った。耳元には小ぶりなピアス。
――ザ・ギャル。だけど、どこかクールな雰囲気もある。
「へぇー、有馬っちね!」
「……有馬っち? 僕のことですか?」
初対面でそんなフレンドリーに呼ばれるとは思わず、思わず聞き返してしまう。
「うんそー! ここ、たまに変なクレーマーとか来るけど、基本楽しいから安心してね!」
軽やかに笑うその人の――名前は……なんだっけ?
問い返す勇気もなく、僕はオドオドしながら一緒に仕事を覚えていった。
※
仕事も一段落し、客足が途絶えた頃。僕が黙々と食器を拭いていると、先輩がひょいとこちらをのぞき込んできた。
「ねぇ、有馬っちって趣味とかないの?」
「趣味ですか……ゲームとかアニメ、ラノベ読むのが好きです。あ、特に今期の『ヒーリング2期』は――1期からずっと見てて……」
――しまった。熱く語りすぎた。
こういうの、引かれるパターンだ。慌てて言葉を引っ込めようとした瞬間、先輩の瞳がぱっと輝いた。
「マジ? 私も見てる! 超見てる!」
「……え?」
「ケンヤ、かっこよくない? あと漫画版の最新話、読んだ? カズと喧嘩して、いきなり殺し合いになるやつ!」
勢いよく距離を詰められ、思わず心臓が跳ねる。
でも、その感想……わかる。すごくわかる。
「あ、あれめっちゃ良かったですよね! カズの覚悟が――」
「でしょ!? あそこからのケンヤの表情とか――」
気づけば僕も、夢中で語り返していた。
気がつくと、話し込みすぎて時間が一時間近く経っていた。
店長が苦笑しながら顔を出す。
「二人とも、今日はもう上がっていいよ」
「あっ、じゃあ……よければまた明日もお願いします!」
僕の言葉に、先輩は一瞬だけ申し訳なさそうな表情をして――すぐ、どこか寂しげに笑った。
「うん、よろしくね」
その笑顔に、何か引っかかるものを感じた。
※
帰り支度をしていると、店長と先輩の話し声が耳に入った。
店長に挨拶して帰ろうとしたところで、呼び止められる。
「有馬くん、言ってなかったけど……白瀬(しらせ)さん、今日で最後のシフトなんだよね」
「……え?」
固まった。白瀬――それが、さっきまで一緒に笑っていた先輩の苗字だった。
「知らせておきたくて。ごめんね、引き止めちゃって」
何も言えず、胸の奥がじわっと冷たくなる。
せっかく趣味を共有できる人ができたのに……もう会えないのか。
※
翌日、学校でラノベを開きながら昨日のことを思い返していた。
過去の嫌な記憶もつられて浮かぶ。
オタクだからと嫌われたこと。何もしていないのに距離を置かれたこと。
女性が苦手になった僕にとって、白瀬さんは特別接しやすい人だった。
「……白瀬さん、いい人だったなぁ」
思わず漏れた言葉。その瞬間、クラスのドアが勢いよく開いた。
目に飛び込んできたのは、騒がしい陽キャグループ――クラスの中心人物たちだ。
僕は視線をラノベに落とし、やり過ごそうとする。
「なぁ! 有村(ありむら)たちもファミレス行こうぜ!」
「それ超アリじゃん! 行こ行こ〜!」
「紗良(さら)、バイト辞めたんでしょ? そこの店行かね?」
――紗良?
耳が勝手に反応した。まさか……いや、そんなわけない。
※
放課後。重い気分を抱えたまま出勤すると、今日は店長と二人でシフトだった。
慣れない手つきで注文品を運ぶ。机に置き、立ち去ろうとした瞬間――。
「おい、これ髪の毛入ってんだけど。それに味も最悪」
低い声に振り向くと、強面の客がこちらをにらんでいた。
足がすくむ。
「あ、あの……」
「はぁ? 聞こえねぇな。どう責任取るんだよ」
胸がぎゅっと縮む。声がうまく出ない。
頭が真っ白になって――その時だった。
「あのさ、さっきから超うるさいんですけど」
間に割り込む女子高生。制服姿。
その声は、妙に耳に馴染む響きだった。
「うるさいのはこの店員じゃなくてアンタ。髪の毛、自分で入れてたの見てたから」
スマホをちらつかせる彼女に、男は舌打ちして、レジの方へと退散していった。
白瀬さんが言ってた“変な客”って、こういうのか……。
「有馬っち、大丈夫?」
――有馬っち。
あの呼び方。心臓が大きく跳ねた。
顔を上げると、そこにいたのは学生服姿の白瀬さんだった。僕と同じ制服。
「なんで……」
「あー、友達に誘われて来たんだよねー」
彼女の視線の先には、例の陽キャグループ。
「まぁ色々あると思うけど――私の分まで頑張ってよ、有馬っち!」
ぽん、と頭に手が置かれる。優しい笑み。
バイト先の先輩が、実はクラスメイトだった――その事実に、僕の心臓は一瞬止まりかけた。
そして、ようやく気づく。
彼女が最後のシフトで見せた寂しげな笑顔の理由を。
これから、学校で毎日顔を合わせることになるという、この運命のいたずらを――。
後書き
モチベーション維持のため、週2回投稿!
投稿時間は夜 21時か22時ごろ!
基本的に火曜日と金曜日に投稿します!
よろしくお願いします!
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