第9話洞窟内の悲劇

気持ち悪さと頭痛に襲われていた。



思い返したように襲い来る”悲痛な光景”……。



いや、違う。




……何故忘れていたのかだった。

意図的なのか、分からないから気持ち悪い。




「氷華大丈夫!?」

「ティム……」

「吐けないの?」

「あ、あぁ……」




強い衝撃が背中に伝わり……

口から一気に吐き出された。




「サンキュー、ティム……」

「何があったの?」

「なん……でもねぇ……」




女神ちゃんを俺は見た……

ここに来る前とは明らかに違ってる。




目に光が宿っていない眼差し……。

少しばかり状況を楽しんでるように見えた。




「……これを見せたかったのかよ?」

「必要だったから」




あまりにも冷静な女神ちゃんの胸元を、俺はつかみ上げた。




「知ってたんだよな?! こうなることも、思い出せば……苦しむことさえも!!」




俺はぶつけどころのない恐怖を、女神ちゃんにぶつけてしまった。




俺は手が震えていた。

女神ちゃんは、何も語らなかった。




「氷華、落ち着いて……! 女神ちゃんもだよ、嫌がってたのになんで?」

「必要だから」

「必要だからって……そんなやり方って!」

「……私には時間が無いの。それだけ」




―――焚き火の炎が揺らいでいる。




少し冷静に俺は考えた……

女神ちゃんだけじゃダメな理由。




あの悲痛な光景を意味してるとしたら……?




「なぁ……その必要って俺にとってメリットは何だよ?」

「これから先に、意味を持つからだよ」




女神ちゃんは澄ました顔で答えた。

クソッ……意味が分かんねぇよ。




「ねぇ、ティムが先に行ったよ?」

「……あのじゃじゃ馬」




……考えるのは今はあとだな。




「……脳筋かよ。いや、追いかけなきゃ」




地面は水分を含み、歩きづらさがある。

川のせせらぎが遠くに聞こえる。




妙に三和音になってるような……。




洞窟内の壁に切り傷が目立つ。

戦いじゃなくて……これ、抵抗の痕なのか……。




「左に行こう」

「……女神ちゃん」

「ん?」

「そんな声だっけ?」

「元からだよ」




俺は違和感があったが、気には留めなかった。




右か左か迷って左側を選んだけど……

奥に進むほど、薄暗くなってるな。



「真っ暗だな……女神ちゃん、たいまつある?」




――反応がない。




「あるよ」




不気味な声と共に女神ちゃんは……

表情が歪み、赤い瞳で俺を見つめてる。




「――」




身体から力が抜けた状態で立っていた。




「女神ちゃん……?」

「――うふふ」




女神ちゃんが不気味な笑い声を……!?

それに、あの赤い眼!?

あの時のは、見間違えじゃなかったのか!?




「攻略なんてやめて……私と一緒に生きよう……?」

「そんな事を言う子じゃない!」

「誰だ、お前は……!」




「この世界の干渉を研究してる……そんな人」



「答えになってねぇ!!」




女神ちゃんはフラフラしながら俺に歩み寄る。




「一緒に自爆しようっか♡」

「なんでだよ?!」

「さぁ、なんでしょうね……ふふ」




そして―――激痛が走った。




「誓いを忘れるなんて酷いよ。“せんぱい”」

「―――!?」




このねっとりした声……

聞いたことがある気がする。




微かな記憶……

この世界ではない場所―――。




学校……

教室で、後輩に「せんぱい」と親しく呼ばれていた気がした。




意識が揺らぎ、俺は地面に倒れた。

逃げようとしたら、少女は俺の胸の上に座った。




「……外から来たんだろ?!」

「お、分かりますかねぇ?」

「女神ちゃんを返せよ!」

「それは無理な話……っとね」

「や、やめろ!!」

「うふふ♡」




俺は必死に体を動かした。




けど、骨が軋むほど凄い力だ……!




……バキッ!!




「腕がぁぁぁぁぁ!!?」

「大人しく……殺られてください♡」




絶叫がこだまする洞窟で……

鋭い刃が俺の喉を引き裂いた―――。




自分の声すら遠くなっていく……。




やがて―――視界は白くなった。







システムログ


領地内ダンジョンでキルが発生。


理由

――によって殺害。


不規則なエラーを感知。


干渉データを削除しました。


電波不安定……若干妨害検知。


システム再起動……

セーブポイントへ戻ります。






ノイズが視界を走った。

頭痛は少しばかり脈を打つ。




さっき死んだよな……?

また戻ってる……。




喉に俺は震えながら手を当てた。

つ、繋がってる……。




う、腕も動くよな……?

手を握り開いた。大丈夫みたいだな。




……また、これ……なのか?




なんでだよ……。




ただ……

今の女神ちゃんは干渉されてるんだ。




ダメだ……考えても理解できない。




最近の女神ちゃんは――

目が潤んでたり……

何か口にしようとしてるんだ。




でも、堪えているんだ……。

絶対に泣き姿を見せたくないんだ。




「……」

「氷華?」

「うっ……」




俺は地下水路まで走り、吐いた。

焼け付く記憶が気持ち悪さしかない。




「ちょっと!? 大丈夫なの?」

「だ、大丈夫だ……」

「顔が青いよ?」

「毒入りポーション飲んだから」

「……へ?」

「だから、吐き気とか……」




気持ち悪い言い訳をするしかなかった。

でも、女神ちゃんは心配そうな眼差しだった。




「……氷華、ひとつ謝りたいことがある」

「今こんな時に何を……?」




「大事にしてた、特製レア肉を丸焦げにした事を……」




「女神ちゃん担当料理の時、何気に黒い異物がテーブルを支配したあの日……!!」




ちょっとお高めのお肉。

それを記念品として冷蔵庫みたいなのに保管してた。



数日で消えてしまった……あの日は確か女神ちゃんが料理担当だった。




「な、何してくれるんだ!? あれは高級な特産品なんだぞぉぉぉぁぁぁぁぁ!!」




「ごめんなさい! 怒らないで!!」




「やーだ、やだ。女神ちゃんが欲しかったサメッティコレクション、手に入れたのになぁ……」




「ちょっと!? それ限定のやつじゃん!?」




「売りますかね」




「あ、あ、あ、あ、売らないでぇ!!」



「肉の罪は重いのデース」




「デス!? いやぁぁぁぁぁ!!」




こんな騒がしい時に……

モンスターの咆哮が響いた。

空気が読めねぇ奴がいたか……。




「なんの声だよ。こっちは気晴らしになってたのによ」

「ドラゴンが目覚めた?」

「いや、知らねぇよ」

「だよねー」

「ほら、行くぞ!」

「うん!」




このダンジョンの記憶が微かに蘇る。




――女神ちゃんに似たNPCが……

儚く光を放って弾いたシーンだった。




誰かを叫んで泣いてる――。




こんな時に……!

クソが……言えねぇ……!

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