第32話、クラスでの立ち位置
初日の自己紹介の中でロイ王子はああ言ったものの、それは今までロイ王子を囲んでいたのが、貴族か有力な商家の子女だったからだ。僕のような全くの平民がそれを信じてロイ等と気軽に呼んで良い筈がない。
現に、僕が自己紹介の時に「ロイ」と呼ばされた時にも、ロイ王子の背後にいた連中の目線はかなりキツイ物があったし。
昨日から、目立たないように静かに教室で観察した結果、このクラスはロイを中心とする王室貴族派、有力商家の子女派、侯爵派に別れていみたいだと言うのが分かった。
もちろん僕はそのどこにも属さない。完全に浮いている、自己紹介で、侯爵令嬢を直に指名なんてした事で侯爵派の方々の視線がグサグサ突き刺さっているのですが?
そして、それがまた商家の子女派には気に入らないポイントでもあるわけで……。
「チッ! 平民の癖に侯爵家に取り入ろうって魂胆か? 生意気なんだよ貧乏人の癖に」なんて声も聞こえてくる。
だからコレは僕のせいじゃ無いですって!
それからは、出来るだけ目立たないように生活する日々が続いた。来る日も来る日も机にジッと座り、先生の質問に答える時もあまり出しゃばらず、大人しく過ごした。
ある日、いつものように先生が生徒に質問をして、答えさせていたのだけれど。その時当てられた生徒の答えが基本的なミスを犯していた。
他の生徒の中には気が付いている者もいてコッソリと笑っている、先生も気が付いているけれど、本人が気付くまで黙っているようだ。
僕は、恐る恐る手を挙げる。
「何だ? アベル」
答えていた子は僕を見て怪訝な顔をしたけれど、先生は質問を受けてくれたので。
「あの、僕が勉強不足だと思うのですが、◯◯の基本については、△◯より◯◻︎が効率良いのでしょうか? 僕が読んだ本では基本しか載っていなかったもので、もし間違っていれば教えて頂きたいのですが」
僕が話した内容を理解した生徒が、間違っていた部分に気が付いたのか焦った顔をしている。それを見た先生も僕の言いたい事を理解してくれたのか。
「そうだな、◯◯の基本については、もう少し別の解釈もある、少しその辺も教えておこうか。ノリスはもう座っていいぞ」
先生も、ノリス君の解答を間違いだとは指摘せず。もう少し詳しく説明をしてくれたお陰で、僕も◯◯の基本を深く知る事ができた。
そして、授業が終わった後。先生が教室を出て行った後でノリス君が僕の所に来て。
「あの、アベル君。さっきは助かったよ、ありがとう」
「何のこと? 僕は教科書を読んでも分からなかった事を先生に聞いただけだよ。あの説明が無ければ勘違いしそうだったよね」
そう言うと、ノリス君は少しホッた顔して。
「アベル君は良く本を読んでいるよね。図書館にもよく通っているみたいだし。僕の家も商人だから魔法については苦手な所もあって……良かったら一緒に図書館で勉強しても良いかな?」
ノリス君と図書館で勉強するようになると、他の商家の子女からも声が掛けられるようになった。ノリス君も、仲の良い友達を連れて来てくれて一緒に図書館に通うようになった事で、他の人の警戒心を解いてくれたのかもね。
「あの……今日も図書館でお勉強なさるのですか?」
その日、僕とノリス君や商家の仲間で図書館へ行こうと準備をしていると、思わぬ所から声が掛けられた。
確かこの子は侯爵派だと思うけど。名前は確か……。
僕が答えなかった事を否定されたと思ったのか。
「あっ、御免なさい急に声を掛けてしまって。失礼でしたよね……」
「あ、僕こそ御免なさい。名前が咄嗟に出てこなかったものだから。今から図書館に行きますが、ご一緒されますか?」
その子は顔を上げるとホッとした表情をして。
「ミミリア・ヨーグルトです。伯爵家ですけれど三女ですので気楽に接して頂けると嬉しいです」
図書館へ着くまでの間に自己紹介と情報収集ついでに話しをしたのだけれど。
聞くと、上にはお兄様が三人もいて六人兄妹なんだとか。それに、グリードル子爵とは遠縁で、それもあって僕にも興味はあった様子。
それと、今日は侯爵派の中でも人付き合いに厳しい監視役が居ないので、思い切って声を掛けたとの事。
「私は算術が少し苦手で、良ければ教えて頂きたいと思って」
侯爵派の中では勉強会とかしないのかと聞くと。寮住みが少なく、みな家庭教師がいてそれぞれ勉強しているから勉強の為に集まる事はしない。それよりも、お茶会が頻繁に行われるのでそこに参加するのが大変で。それこそテスト目前でも開催されるので困っている子も多いと言う。
「テスト前も……」
一緒に歩いている商家仲間も「テスト前は勘弁」と呟き合っている。
ミミリア嬢には、算術を教える代わりにお茶会と聞いて思い出した。テーブルマナーを教えて貰う約束をした。
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あとがき
何とか自分の立ち位置を作る為に、試行錯誤するアベルなのでした。
次回は、異世界で定番のある娯楽を持ち込みます。
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