第23話 一般人の戦い

車道は追突事故やら、警察やら、ぎゅうぎゅうに立て込んでいる。

 

やはり原付バイクで出てきて良かった――思いながら藻部市もぶいちは、エンジンをふかした。

世界はすっかり壊れている。

 

藻部市の知る平和は、もうここにはなかった。

道端で、バットを振り回した男が子供からD端末を取り上げようとしている。駆け寄る親らしき男――その手にも武器があった。

 

避難所を求めて彷徨う集団や、額から血を流す警官まで――集団パニックという芽が芽吹き、花が開花していくようであった。

藻部市は目を逸らしつつ、職場だった場所に原付バイクを乗り付ける。駐車場には不法駐車の車以外、何も残っていなかった。

 

案の定、シャッターは閉まっていない。閉まっていても藻部市には開けられるのだが。

恐る恐る、店内に足を踏み入れる。自分の足が、転がった商品を蹴飛ばして藻部市はビクリと怯えた。

 

シンと静まり返った店は、それだけで怖い。

スポーツ用品売り場にそろそろと向かうと、藻部市はオークション画面を開き、片っ端らから3ポイントで売りに出す。

 

野球バット、ゴルフクラブ、ボクシンググローブ、ダメ元でサッカーボールや、バスケットボールなどもオークションに出品した。

おまけで野球のプロテクター、アメフト用ヘルメット、剣道の防具なども出してみる。

 

D端末のストアが売り切れになれば、藻部市に必然的にポイントが集まる――はずだ。

だが、チャット欄を見てもストアで金属バットを買った人間を数名見かけたが、ストアが売り切れる気配がない。

 

――しくじったか?

 

藻部市の予想より、ストアの在庫は多いのかもしれない。だとすると、ここにきた計算が狂う。

 

「ダンジョンに……」

 

言って、藻部市は震える。

そう言えばチャット欄では、それぞれのマイページに載ったジョブの話で盛り上がったが、藻部市はまだ未確認だった。

 

――――――――――――――――

藻部市達雄 レベル/1 ポイント5

空気を踏んで歩く者スカイストライド

風障壁(小)圧縮空気(小)空気清浄(小)

体力:LvE

筋力:LvE

敏捷:LvE

防御:LvE

器用:LvE

走力:LvE

幸運:LvE

―――――――――――――――――

 

空気を踏んで歩く者。なんだそれは。

藻部市が想像していたのは、火の玉を出したりする魔法使いや、剣士などのジョブだった。

 

――ハズレを引いたか。

 

スキルの空気清浄など、エアコンかと思う。バカバカしさのあまり、藻部市は吐きそうになった。

 

「これでどう戦えって……?」

 

風障壁などは、文字通り壁を作るのだろう。

圧縮空気というスキルにしか期待は出来ない。

 

まだ、なにかあるはず――。

虚しく漂った視線は、園芸用品だった。

そういえば、シャベルなども武器になりそうだ。

 

「シャベル……バール、ハンマー、鍬、鎌、ノコギリ、電動ドイル、チェーンソー、ヘルメット……」

 

一度止まった脳が動き出す。

今度は欲張らずに1ポイントで出品した。わずかでもいい、頼むからポイントをくれ。

 

手当り次第にオークションに出してから、藻部市は少し放心した。

これが売れなければ、何しにここへ来たのか。

 

大口を叩いた手前、5ポイントのまま帰宅するのも躊躇われる。

――待て、逃げ出す前にあの客はなんと言った?

 

 

スライムならば、藻部市でもいけるのじゃないか。

RPGの低番の雑魚キャラだ。

 

もし危険ならすぐに出ればいい。

一本だけ残しておいた大きなシャベルを持って、そろそろと元倉庫に近づく。

 

上司の血痕は、いくつも足跡で消されて踏みにじられていた。

心臓がドクドクと波打つ。痙攣のような動きでダンジョンの入り口に首を突っ込むと、そこにはゲームで見かける水色のスライムたちが地面を這っていた。

 

倉庫の面影はない。完全にゲームで見たダンジョンの姿だ。

足を踏み入れてみても、特に大きな動きはない。時折ほよんと跳ねるだけ。

 

藻部市は、力を込めてシャベルを振り下ろした。

強い弾力と、シャベルを弾く分厚さが手に残る。

 

すぐに後ずさったが、スライムから大きな反撃はない。

ただ、散開していたスライムたちがずるずると藻部市目掛けて進んでくる。

 

慌てて藻部市は逃げようとしたが、シャベルに躓いて這い蹲った。――どこかに逃げなければ。

その足は、何も無い空中を踏みしめた。

 

「え?」

 

一歩、二歩、見えない脚立を登るように藻部市の体が宙に浮く。

 

 

――そういう、ことか。

 

藻部市の意思で、空中階段は横にもなった。

地面から一メートルほど浮き上がったまま、ぐるりとダンジョンの中を歩く。

 

ダンジョンと言えども、いくつものエリアに分かれていてスライムはまだまだ奥にたくさんいた。

一度作った階段は、消えないらしい。

 

スライムたちは藻部市を見失うとまた散らばり始めた。

スコップで、叩き続けて倒しては空中階段に逃げる。

 

それを繰り返しているうちに、スライムが消えた後に残る白い石が溜まり始めた。

藻部市は、一度売り場に戻って作業着を着、大きなリュックにその石を集める。なんなのか分からないが、ドロップ品なりに意味があるはずだ。

 

藻部市の腕が上がらなくなってきて、空中の段差の上で休憩をとった。入るのにも震えてきた当初から比べると、慣れとは恐ろしい。

 

「ポイントは……15ポイントか」

 

リュックの中の石は十個。スライム一匹で1ポイント換算だ。

疲れた腕をさすりながら、藻部市は辺りを見渡した。光源付きのヘルメットを奥底に向ける。

なにかが、その光を僅かに反射した。

 

「なんだ……?」

 

既に筋肉痛が始まった体に鞭を打って、藻部市は次のエリアまで階段を伸ばす。

なにやら、銀色の箱がスライムに混じって落ちていた。

 

――なんだあれは。

 

チャット欄に、似たような書き込みはない。

分からないことは鑑定カメラアプリで、のコメントに藻部市の理性が戻った。

 

謎の白い石は、アプリを起動させると魔石[加工素材]と出る。更に写るかギリギリの位置で捉えた銀の箱には、[宝箱]と表示された。

ゲームにおける宝箱は、当然設置型罠のハズレもある。だが、当たりだったら――?

 

藻部市の目には、銀の宝箱は宝石のように見えた。

 

そうだ、努力して生き残ろうとしている者に外れなんてない。

ゆっくりと、藻部市は空気の階段を降りて宝箱に向かって足を踏み出した。

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