第22話 足らないポイント②
「ポイントがないと死ぬんだ! ポイントどころじゃない――ダンジョンが出来て、目の前で人が死んだんだ!」
「落ち着いて――お願い」
遥香が、必至に藻部市を止めた。
責め立ててしまって、母親には悪いと思っている。
現状を見ていない分、半信半疑なのは仕方ない――けれど。
「おばあちゃん、指、貸して!」
陽香が、母にD端末を握らせると、後ろから支えるようにしてその指を操作する。
場違いな明るい音楽が流れ始め、トントンとリズミカルにリズムが刻まれた。
「ほら! クリアした! 10ポイントとれたよ!」
「偉いぞ、陽香」
この手があったか――と藻部市は誇らしげに娘を見る。
続いてのパズルゲームも、陽香が上から操作してポイントを入手した。
ポイントをゲットして、家のなかは少なくともささくれたムードから脱する。藻部市のスマホは熱を帯びて動かない。
藻部市は、その間D端末をいじり、チャットを覗いた。
――オークション?
なんでも出せるのか、ふいに気になった。
様々なシチュエーションでこのダンジョン発生は起きたはずだ。
ならば、普段使いのものも、人によっては購入知れくれるかもしれない。
玄関に出て、自分が履かなくなった靴や、遥香が靴擦れで手放そうとしていたブーツなどを出品を押してカメラを切る。すると、靴はスっと空間から消えて、オークション画面に乗った。
――魔法みたいだ。
ダンジョンがある今、それはなんの不思議もないのかもしれないが、いよいよ非日常感は増す。
「しまった!」
慌てて出品したものは、ポイント設定をしていなかった。画面では1ポイント販売になっている。
もっと強めに出せば良かったのかもしれない。だが買われなければポイントは手に入らないのだ。
――ダンジョンでモンスターを倒せばポイントが。
馬鹿な、と思う反面、ゲームが出来なければポイントが入らない日がくる。現にメインスマホはもう死に体で、検索しながらクイズをこなすのは今日が限界かもしれない。
喉が渇いた藻部市は、キッチンで水道を捻った。
幾ら蛇口を押しても、水は出てこなかった。
「断水……」
とうとうここまできた。
あとは、冷蔵庫に入っている飲みものと災害用リュックの水だけ。
ストアには、ポイントで買える水があったがそれはポイントを減らすことになる。
――職場だ。
藻部市の職場はホームセンターだ。武器になりそうなものがたくさん売られている。
あんな混乱の後だ。店は営業できていないだろう。
バットやゴルフのクラブなどは、充分に攻撃に使えるはず。
今のうちに、あるだけオークションに出品したらポイントはどれだけか貯まるだろう。
藻部市は、居間に引き返した。
「これから、職場にちょっと行ってくる」
「やめて!」
「戦うの!?」
しゃがむと、母の細い手を握る。藻部市より母のほうが、手が震えていた。
「なに、商品をオークションに出すだけだ。危険なことはない」
「帰ってこれるのかい?」
「母さんの分のポイントも稼いでくるから、待っててよ」
念の為、藻部市は手持ちの40ポイントのうち35ポイントを家族それぞれに譲渡する。
15ポイント渡したのは、母親だ。
「水や食べ物はポイントを出来るだけ節約して使ってくれ」
あとは、息を消して自宅に潜んでいろ――藻部市は声を殺して呟いた。
「ポイント目掛けて襲撃もありうる。誰から呼びかけられても絶対に出るな」
遥香がはっとしたように、娘の手を握る。
藻部市以外に、男手はない。
藻部市がD端末をもって玄関に向かうと、陽香が飛び出してきて抱きつく。
「死なないで、お父さん、死なないで!」
「死なないさ」
平気な声をだそうとして、上滑りした。
家族の為に外に出て危険を犯す父親。涙する娘。
映画なら、間違いなく死亡フラグだ。
車の鍵を握ろうとした手は、原付バイクのキーをとった。
混乱した車道を通るには小回りがきくほうがいいだろう。
「いってきます」
藻部市が出ると、指示通りに玄関を何かで塞ぐ音がした。
陰鬱なそれが、藻部市を送りだす。
ポイントを――少しでもポイントを。
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