砂漠が嘆く
imoko。
涙が乾く
砂漠を歩く
厚い布靴の中は砂まみれ
彼は気づかない
足に意識がない
足だけじゃない
体全体に
今、彼を動かしているのはこの場を抜け出さなくてはいけないという本能だ
しかし景色は全く生きていない
彼は一人だ
正しく言うと一人になった
竜を彼は飼っていた
いや、あの関係を飼っているとするのはよくないな
…
家族だった
家族というものが何か私は知らないが
彼は孤児だった
よくある話だ
街の裏路地でゴミ箱を漁っていた時に空から落ちてきた
竜は鈍い音をたてた
竜は大型犬ぐらいの大きさだった
子供であった
少年も竜も
少年はその竜に触れた
まだ息をしている
少年は竜を大事にした
竜も少年を大事にした
彼は大きくなった
竜はそれほど変わらない
竜は寿命が長い
その分、成長のスピードも遅いみたいだ
彼は軍に入った
金が貰えるからだ
その間はバラバラ
竜は本来、人の敵だ
竜は敵とは思っていないかもしれない
でも人は違う
人は神様が面倒になり、やけくそに作ったものだ
人は曲がった考えで竜を敵とした
その考えとは
それは聞かない方がいい
あまりにもバカバカしい
さておき、そのような事情を彼はもちろん知っていた
だから竜を町の近くの森に放した
この森は比較的、穏やかだ
竜なんて攻撃する者はいない
果実も綺麗な水もある
彼はまた会うことを約束して竜と離れた
竜も分かったのか追いかけてはこない
美しい鳴き声だけ発した
この星の心臓の音であった
彼は五年ほど経って軍から一時的に出ることができた
彼はすぐ街の森へ向かった
森は焼けた後だった
彼は生きていない私を歩く
足音はしない
まだ私は彼を喰わない
なんて優しいのだろう
試しに彼の前にオアシスを出してやった
なんて優しいのだろう
彼はオアシスを見た
気がした
実際に彼の眼には何も映らないだろう
彼は歩く
オアシスを抜け出して砂を歩く
彼は私と居たくないらしい
当たり前だ
私を好きな奴など絶対にいない
たまに私のことを好きだと吹く奴も要るが
そいつらは本当の私を知らないか
私とは別の誰かにいるだけ
私を好きな奴などいない
絶対に
多分
おそらく
いや
いたかも
彼、彼女もうわからない
性別も顔も声もなにも覚えていない
とりあえず君としよう
君は私を好きではなかったと思う
君は彼と一緒で生きていない私を歩いていた
私は同じくオアシスを出した
君は最初はオアシスを通り過ぎた
でもそのあと戻ってきた
いくらか私を歩いて気づいたんだろう
君は私から出られない
君はオアシスにテントを作って住み始めた
君は元恋人の視線にも気づいていなかった
それが私にはおかしかった
でも君は死んだ
砂漠で満足に一生は過ごせない
君はわかっていた
私は最後に君を喰った
彼はまだ歩いている
彼は何を目指しているのだろう
水だろうか
人だろうか
星だろうか
竜だろうか
いや彼はもう竜を目指していない
私がクジラを見ないのと一緒だ
彼は
君は
どこへ行くのだろうか
私は生きていない
だから彼らを追いかけられない
声もかけられない
隣に居るだけ
でも彼らはそれを嫌う
当たり前だ
一番、孤独なのは私だと泣きたい
砂漠が嘆く imoko。 @imoko2000416
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
何にもなれない凡人の嘆き/伝々録々
★6 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます