よるが明ける
とな
第1話 夜を生きる星
蛍光灯の白い光が、黒板のチョークの粉を淡く照らしていた。
午後七時を過ぎた教室には、十人ほどの生徒がいる。
外はもう夜。
窓の外に見える街灯が、まるで別の世界の明かりみたいに遠くに滲んでいた。
星(ほし)はノートを開き、ペンを動かしていた。
書き慣れた文字が並ぶけれど、頭の中はほとんど真っ白だった。
先生の声が聞こえても、どこか現実味がない。
眠いわけでも、退屈なわけでもない。
ただ、自分がここにいることに、少しだけ違和感がある。
「……ほし、聞いてる?」
隣から声がする。
凪(なぎ)だ。いつものように頬杖をつきながら、ニヤッと笑う。
「聞いてるよ」
「うそつけ。ペン止まってんじゃん」
「止まってない」
「いや、止まってた」
くだらない会話。
でも、星は心の中で少しだけ救われていた。
凪の存在は、夜学という静かな海の中に浮かぶ灯みたいなものだった。
授業が終わり、チャイムの音が夜に溶けていく。
星はノートを閉じ、カバンを肩にかけた。
廊下を歩くと、遠くから結城先生の声が聞こえる。
「おい、星。バイト、また増やしたんだって?」
「……はい。昼にちょっと」
「無理すんなよ。夜は長いんだから」
その言葉に、星は小さく笑った。
“夜は長い”――それは、星が一番よく知っていることだった。
帰り道、空を見上げる。
静かな空に、光る星を見つける。。
夜風は心地よかった。
れだけで、少し生きている気がした。
帰り道のコンビニ。
買い物袋を片手に出てくると、街灯の下に一人の女の子が立っていた。
制服が違う。
昼の学校の、それもどこか華やかな感じの。
スマホを見ながら、ため息をついている。
星は立ち止まる。
けど、何も言えない。
その女の子がふと顔を上げた。
目が合う。
一瞬、世界が静まった気がした。
「……こんばんは」
彼女が先に言った。
星は少し間を置いて、
「……こんばんは」
とだけ返した。
それだけの会話。
でも、その夜を境に、星の中で何かが少しだけ動いた。
(つづく)
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