色んなふたり ~ 300文字の恋模様 ~

加藤よしき

第1話

 祖父が倒れた時だ。子供だった僕は不安で仕方なかった。

 でも祖母は違った。普段通りだったんだ。


 たとえば祖父が、

 「もう、しんどいわ」

 そう言うと、祖母は

 「アホ、こっちの方がしんどいわ」

 すると祖父は

 「キツいなぁ」

 そんなふうに家にいるみたいに、ふたりで笑っていて、僕は少し安心したのを覚えている。

 でも、亡くなる直前、祖父は祖母の手を取り、

 「ありがとう」

 その途端、祖母は泣き崩れた。

 

 あれから何十年も経った。僕は今、ベッドに寝ている。子供たちは不安そうだけど、妻はいつも通りだ。おかげで僕は救われている。

 だから祖父のように、僕も「ありがとう」と伝える。キミを泣かせてしまうだろうけど、どうか許してほしい。

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