第2話 見透かす女性

最悪の目覚めを告げる様に、アラームが部屋中に鳴り響く。

その音を手探りで探し当て、僕は、携帯の電源ボタンを押した。

少しの時間、枕に顔を埋めて、すーっと息を吐き

ゆっくり重たい体を起こして、再び携帯に手を伸ばして

画面を確認する。


時刻は、午前7時10分。


ロックを解除して、画面の隅々を確認する。

右下にあるアプリを確認し、昨日の出来事は、現実のものだと証明する。


最悪だ。


洗面所に向かい、顔を洗い歯ブラシに手を伸ばした時だった、

携帯に、メッセージが入った。

メッセージを確認すると、高校の頃の同級生で今でも時々会っては、他愛もない話をする僕の一番の理解者であり、一番の友人。

#向井哲也__むかい てつや__#からだった。


メッセージの内容を確認すると。

『今度いつ空いてる?』

#あいつからの誘い__・__#は、久々だった。いつも僕は、何かあれば彼に連絡して

相談に乗ってもらっている。

昨日の出来事を哲也に相談しようと、メッセージを返信する。

『今日の19時からなら空いてる』

歯ブラシに、歯磨き粉を付けて歯を磨いてると、哲也から返信のメッセージが届いた。


『了解!じゃあお前んちに19時に向かうわ!』

『なんかいる?』

『大丈夫!じゃあ19時に!』


メッセージのやり取りを終え、蛇口に手を伸ばした時に、ふと#過__よぎ__#った。

哲也からの誘いは、恐らく#あの事__・__#だろう。


仕事の支度を終え、部屋着からシャツに着替える。

特に人前に出る仕事ではないものの。これは自分なりの拘りだ。

ラフな格好は、嫌いではないが、仕事とプライベートは分けたい方なので、

出勤時も、仕事中もシャツを着る。

もう一度洗面所に向かい、きっちりした自分の姿を確認するも、やはり寝不足のせいなのか。どこか#窶__やつ__#れて見えた。


自宅を出て、鍵を掛け自宅を仕事場へ向かう。

道は、同じはずなのに、昨日の出来事のせいなのか。

何処か雰囲気が違うように思えた。

信号が見え、その信号を曲がって少し進めば踏切があり、

そこを越えた先に職場があるのだが。

どうしても真っ直ぐに進んだ先にある昨日の店が気になった。

携帯を取り出し時間を確認する。

まだ少しだけなら時間は、ある。

真っ直ぐ進み、昨日の店の前に立ち止まるも、店はシャッターが閉まっており

昨日は暗くてあまり見てなかったが、小さな店は、自宅よりも古びており

とてもこの時代の物とは思えない程、小汚い店だ。


取り合えずまた夜見に来ようと、振り返り曲がり角を曲がろうとすると

向こうから女性が、前を見ずぶつかってきた。

「痛ッ・・・。」

女性は、そのまま後ろに倒れてしまい、僕は、大丈夫ですかと声をかけた。

朝方と言うのに、少し派手なワンピースを着飾り何処かお酒の匂いが、漂う。

よく見ると女性は、涙を堪えるように歯を食いしばっている。

あの・・・。ともう一度声をかけるも

「大丈夫です。」と立ち上がりその場を去って足早に去っていった。


恐らく駅付近のスナック街で働く女性だろう。

何かあったんだろうなと、要らぬ考察をするも、ふと我に返り職場へ急ぐ。

職場への道を改めて堪能しながら歩いていた。

宝くじ売り場や、洋服屋に、大きなショッピングモールが見え、

ファーストフード店が立ち並び、コンビニもある。

昨日は、閉まっていたり暗くてよく見てなかったけれど、色々と揃ってるんだなと

思いながら、昨日の出来事をまた振り返った。


『1ヵ月以内に、夢を2つ叶えてください』


もしも、夢を何でも叶えられるならば、宝くじで億万長者でもありなのか?

自分で店を出すのも、叶った内になるのか?と色々と頭の中で、

考えうる夢とやらを整理していた時だった。


「危ないっ!」

可愛らしい女の子の声が聞こえたと思った瞬間、袖を引っ張られ僕は、その勢いのまま膝を付いた。

上を見上げると、そこには大学生位の綺麗な顔立ちの女の子がこちらを見て顔を真っ青にしている。

彼女の顔を見ていると、唖然とする僕を見て彼女は、

こちらの顔の除き込んできた。


「大丈夫ですか?」

「あっ!はい!大丈夫です!」

久々に話しかけられたからなのか。それとも彼女が#何処か元カノ__・__#に似ていたからなのか。僕は、タジタジになっていた。

「ビックリしました。遮断機しゃだんきが、下りてきてるのに、貴方そのまま歩いていくもん。」


遮断機?


そこでやっと僕は、踏切が目の前にあった事に気づいた。

「本当に大丈夫ですか?」

再び彼女は、僕の顔見て心配そうに顔を覗き込んできた。

「あっ・・・。ありがとうございます。本当に大丈夫です」

「そう?なら良かった。」


彼女は、僕に手を差し伸べ僕は、彼女の手を握り立ち上がる。

その瞬間電車が僕らを横切った。

遮断機が上がり、彼女は踏切を渡りこちらに手を振り去っていく。


僕の耳に確かに聞こえた。電車が横切る瞬間に彼女が僕に言った言葉。

『ぼーっとしてると奪われちゃいますよ?“夢”』


僕は、彼女を追いかけるも、彼女の姿はもう何処にもなかった。

また僕の頭を昨日の出来事が、脳裏を駆け巡る。


『貴方様以外の者も、このキャンペーンにご招待されております!』


まさか彼女も、キャンペーンに選ばれた一人なのか?

自分がおかしくなりそうな気がした。

また震えが止まらなくなっていた。

いつの間にか僕は、会社に電話し体調不良と言う事で仕事を休む連絡をし、

気づけば哲也に電話をかけていた。

2コール鳴ってすぐに哲也の声が聞こえた。


「なんだ?こんな時間に?」

「哲也・・・。今何処だ!?」

「何処って?家だけど。どうしたんだ?慌てて。」

「今から会えるか?」

「えっ!?今から!?お前仕事は!?」

「休んだ」

「はぁ!?なんで!?」

「なんでって!兎に角・・・。」

僕は、言葉に詰まり今の自分の異常さに、はっと我に返った。

辺りから視線を感じる。急に込み上げる恐怖。


それは、あの出来事から何処か自分が自分でないような気がしていた。

電話越しから聞こえてくる哲也の声。

「おい!洋平!今何処だ!?」

「・・・ごめん。」

僕は、精一杯身体の底から空気が抜けて行くような声で哲也に謝った。

哲也は、それを察したのか。すーっと息を吸い僕を落ち着かせるように優しい口調で、僕に問いかけた。


「大丈夫だから。兎に角落ち着け。一回深呼吸。」

言われるがままに、僕もすーっと深呼吸した。

その音を聞き哲也は、僕に説いた。

「今何処だ?」

「今・・・職場の近くの踏切。」

「わかった。そこで待ってろ。10分位で着くから」

「ごめんな。」

「いいって。話は後だ。それか家に帰ってろ」

「・・・いや、待ってる」

「・・・わかったダッシュで向かうわ。」

「ごめんな。」

「何回も謝んなって!とりあえずすぐ行くからな!」

そう言って哲也は、電話を切った。


電話を終え、僕の身体中恐怖が押し寄せた。

何故、何も望まなかった僕が、こんなにも怖い思いをしてまで

夢を叶えなければならないのか。

平凡な日常が、たった一つの出来事によって、こんなにも恐怖を感じる日常になるなんて。


最悪だ。

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