3.0



 柚とは4月1日、入学式後のオリエンテーションで初めて出会った。



 「スーツ、なんだか動きづらいね」



 がやがやと賑やかなホール内、真後ろに座っていた彼女に声をかけた。



 何を話しかけたらいいか分からず、とりあえず今考えていたことを気付いたら声に出していた。


周りがうるさい。すでに打ち解けあっているかのように聞こえる賑やかさ。



まだ誰とも打ち解けられていないせいか自分の中で焦りがますます大きくなる。



 普通ならば「ねえ、どこから来たの?」とか「はじめまして、丹治です」とか当たり障りのない会話から始めるのだろうか。



 変な汗が額を伝う。次に何と言おうかと頭の中でぐるぐると思考を巡らせていた。



 焦りに焦っていると、ぼーっとどこか遠くを見ていた彼女はこちらを向き、やっと目が合った。



 きっと彼女は話しかけられたことに気付いていなかったのだろう。



 「スーツ動きづらいよね、私も思ってた」



 5秒程の沈黙の後、彼女は丸い目をクシャッと細めながら無邪気に微笑んだ。




 「私は辻村柚。よろしくね。」




 その名前を聞いた途端、私は恐怖と困惑で固まってしまった。今までとは違う焦りが身体を駆け巡った。




 辻村柚。彼女が、つじむら ゆず 。




私が柚と出会ったのはこの時が初めてだ。

しかし、名前は知っていたのである。






「 つじむら ゆず は かならず おまえを ころす」

 


そう一文だけ書かれた小さな手紙が手元に届いたのは柚と出会うおよそ1ヶ月前のことになる。





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