第6話 舞、大和の副業に感心する

 そうこうするうちに女の子たちは電話番の瞳を残して派遣先へ出て行った。


 [第5話から続く]




 大和もどこへ行ったのか外出してしまい、リビングには舞と瞳とカナの3人だけが残された。


 一息ついたので舞はコーヒーを入れて、


 「結構、忙しいのですね」


 と、瞳に差し出した。


 「ありがとう。忙しい日は重なっちゃうのよね。舞ちゃんはいつスカウトされたの?」


 瞳がコーヒーを飲みながらたずねる。


 「ううん。スカウトされた訳じゃないんだけど、みんなはスカウトされたのですか?」


 「て、いうか大和とは事務所が同じなのよね。私たちみんな同じ事務所か、知り合いのモデルクラブに所属しているの」


 「そうなのですか。私もモデルやっているけれど、事務所、どこですか?」


 「アクティブというモデルクラブ。でも仕事はめったにないしね。たまに打ち合わせだと言われて指定の場所へ行くと、仕事をやるから俺と寝ろ、と言われたりしてね。挙げ句の果てが食い逃げされる」


 「そうね。よく聞く話ですよね。それか金持ち2世か芸人たちの、飲み会の員数合わせに送り込まれる」


 舞も頷いた。


 いい仕事があると言って体を要求され、そのあとはナシのつぶてという話は掃いて捨てるほどある業界なのだ。


 そして芸能人の飲み会へ行けば行ったで、何をされるかわからない恐ろしさがある。それでも行くのは人気芸能人への興味半分と、バイト代欲しさからである。


 「それでモデルより効率のいいバイトがあるって大和が言うから、やっちゃったの」


 「やっちゃった、って、怖くなかった?だってまるきり知らない人の家かホテルへ行って、ヤルのでしょ?」


 「うん。最初は恐かったけれど、慣れたわ。それに私たちのモデル業界だってクライアントからお客さんを紹介されて、寝ろって言われるじゃない。そんな時って、相手はほぼ初対面でしょ。それを考えたらこっちの方が断然お小遣いにもなるし、お客さんもそんなに恐い人はいないわ」


 「で、ホテルへ行ってヤルだけ?でもそのとっつきは難しそうですね。じゃあ早速ヤリましょう、なんていうのもナンだし。なんか、気まずそう」


 「まあね。でも大和がいろいろ教えてくれるし実習もしてくれるから、その通りにやればいいの」


 「実習って?」


 「大和が客になって、いろいろ教えてくれるの」


 「いろいろって、どんなこと?」


 「だから、いろいろ。たとえばお客さんの所へ行って、ホテルのドアを入って挨拶する口上からシャワーを浴びて、ベッドへ入ってフェラからHをしてドアを出るまで。コンドームのオシャレな付け方とか、男の喜ばせ方とかを教えてくれるのよ」


 「それって、大和との実習でもほんとにHをするの?」


 「うん。最初、お客さんの所に行ったら誰でも戸惑うから経験しておけって言われて。舞ちゃんも受けたんでしょ?」


 「う、ううん」


 舞は思い切り首を振った。


 大和のヤツ、こんなことして有り余る性欲を満たしているのだ。


 ということはここにいる女の子たちとは、全員ヤッているということだ。学校にはテニス部の寺田恵もいるし、ちょっとムカつく。


 「そうなの。受けてみれば。アダルトビデオと同じことは殆ど経験させられるから、お客さんの所でいきなりそんなことをされてもまごつかないの。それに大和って、巧いのよね」


 「はあ・・・。客はどこで見つけるの?」


 「さあ?それは大和の仕事だから」


 瞳は言いながらパソコンのマウスを動かして、


 「これが顧客名簿。非常時最優先持ち出しパソコン」


 その1つをクリックして、瞳が説明を続ける。


 まず氏名と、客が電話をかけてきた時にナンバーディスプレイで表示された電話番号の確認。


 殆どが携帯番号になっている。


 次に、分かれば年齢。

 それから分かれば本名。


 続いて職業及びこれも確認出来れば会社名と、過去の利用履歴。


 備考欄に好みのタイプなどが入力してある。


 氏名は電話をかけてきた時のアクセス名で、本名がわかった時だけ本名欄に記載がある。


 そして会社名は数字で、


 ①なら上場企業及び公務員、

 ②ならその他の会社員、

 ③は自営業、

 ④は芸能人、

 ⑤は不明。

 ⑥に過去にトラブルを起こした客で、


 ⑥の客から電話が入ったときには断ることになっていて、

 ①欄の氏名と連動して、


 名前そのものが指名手配犯のように点滅する仕組みになっている。

 備考欄にその時のトラブルが記入してあり、かなりシステム化されている。


 「このシステムって、大和が作ったの?」


 と、舞は聞いた。


 「多分、そうなのでしょうね。あとはその都度、その日当番になった人が報告を受けてデータを加えてゆくの。電話を受けた時に絶対にメモしておかなければならないのはお客さんの名前と電話番号と、訪問先のホテルのルームナンバーの3点。これが抜けると、どこへ誰を訪ねて行けばいいのか、分からなくなるから」


 「ふ~~ん。すごいね。大和って、やり手なのね」


 こんな男が社会人になったら大活躍をするのだろう。


 「で、受け取ったお金はその日のうちに集計して、大和の手数料30パーセントを引いて、翌日支払うために個々の封筒に入れておく。そこまでがその日の当番の仕事」


 「ふ~~ん。ということは1回4万円だって聞いたから、28000円が瞳さんの取り分?」


 舞は唯々感心するばかりだった。

 瞳の横で画面を眺めながら舞は、大和はどうやってこの客たちを集めたのだろうと考えていた。


 「うん。1晩28000円のバイト料。私は今日の当番日だから、その日は2万円の当番料」


 「悪くないね。ちょっと見てもいいですか?」


 舞はどんな客がいるのか知りたくなった。


 「いいわよ。どうせ交替で電話番をやらなきゃいけなくなるから、慣れておきなさいよ」


 瞳がノートパソコンを舞の方へ押しやる。


 舞はすぐにワイヤレスマウスを動かす。


 198までナンバーが打ってあり、アクセス名が書いてあるところをみると、1回きりも含めてそれだけの固定客があるということなのだろう。


 「凄いお客さんの数ね。それで常勤3、4人は少ないんじゃない?」


 と、舞は聞いた。


 「多い日は6、7人、10人くらい集まる時もある。でも強制ではないからお小遣いが欲しい時だけやって来る。海外旅行へ行くために集中してバイトをする子もいるわ。今日は私を含めて5人ということ」


 「じゃあ今は皆、出払っているけれど電話がかかったらどうするの?」


 「断るしかないわね。でも大和が言うにはそれでいいらしいの。ウチは女性のレベルが高いからすぐに予約済になるという評判が立つ。それはそれでメリットだって」


 「何人くらいの女の子がいるんだ?って聞かれたら、どう答えるの?」


 「登録女性は20人。常時10人程度です、って答えるようにしているわ」


 「なるほどね」


 やり方も電話対応も、すべてマニュアル化しているのに舞は驚いた。


 舞はマウスをスクロールしてゆくうちに、テレビで良く耳にする名前を名簿の中に見た。


 職業欄を見ると元政治家・現タレントとある。


 しっかり携帯番号が打ち込んであるところをみると、携帯を使ってデイトの申し込みをしているのだろう。


 「端本徹って、毎日のようにテレビに出ているコメンテーターの端本徹?」

 と、舞は聞いた。


 「そうよ。元、どこかの街の首長くびちょうか国会議員かをやっていた人よ。中国製の太陽光発電パネルを日本で最初に不自然な形で導入して、中国の手先と言われている人」


 「ああ、あの人ね。中国に女がいるとか、中国の毒饅頭を食べて手下に成り下がったのではないか、と噂されている人でしょ」


 舞はテレビで見る端本徹の顔を思い浮かべた。


 最近はコメンテーターとしてテレビに出て、何やら調子のいいことを言っているが、首長を退く間際の無責任な言動は国民や市民から強い批判を受けている。


 「そ。その人。ナントカの博覧会を誘致した張本人でありながら、莫大な赤字が出そうになると責任を取らずにあっさり逃げ出して、卑怯者と言われているわね」


 「結構、頻繁に利用しているのね」


 「ええ。もっと激しい人もいるわよ。ナンバー58に中北誠二という名前があるでしょ。その人なんか1週間に1回くらいは電話がかかってくるのよ。で、その人の好みが熟女だからね。困ってしまう。だってウチに熟女なんていないもの」


 「その時はどうするのですか?」


 「ウチには熟女はいませんとハッキリ言うわ。全員二十歳はたち前後から25歳までだと」


 「そしたらどうなるの?」


 「それでいいってなるわ。熟女が好きならそっちへ電話をすればいいのにね」


 「ふ~ん。って、この人、現役の国会議員じゃないですか。国会議員が買春しているということですか?」


 舞が職業欄を見ると国会議員になっていて、その横に本名が記入してある。


 「驚くことじゃないわ。そんな人、山といるわよ」


 「それに、この人、国家公務員じゃない」


 ナンバー98のアクセス名のほか、本名欄に太田和典とある。財蔵省職員と立派な肩書きがついている。担当は瞳になっている。


 「ねえ、この人、本名欄に太田ナニガシって記入してあるけれど、どうやって本名を知るのですか?」


 舞が聞いた。


 端本徹などテレビに出まくって顔が売れていれば当人だと分かるが、一般客だと誰が誰だか分からない。


 それにもかかわらず本名欄に名前が記載されていることに舞は驚いていた。


 本人も法律に違反しているのは分かっているだろうから、デイトクラブなどで正体を明かすことは絶対ないはずなのに。


 「瞳さんの名前が書いてあるから、瞳さんが聞いたのでしょ?」


 「ええ。簡単よ」


 と、瞳が答えて、


 「その人に3回目に指名された時、終わったあと睡眠薬を飲ませたの。それで眠り込んだ隙に名刺を携帯カメラで撮った。そのあと、家へ帰らないでいいですか?と言って起こした。財布の中身を抜いたのではないから相手は感激して、私の信用も高くなる」


 「へぇ~~凄いのね。でも睡眠薬って、そんなに即、効くの?」


 「ええ。10分くらいで即効よ。一戦終わったあと、マッサージなんかしてあげている時はもっと早い。大和がどこかから仕入れてくるの。そこに本名が書いてあるのは殆どがその手を使って名刺を仕入れたものよ。だって男がシャワーを浴びている隙に名刺入れを探るのって、ヤバいじゃない」


 「それに本名でデイトクラブに電話を掛けてくる人もいないしね」


 「そうそう。だから何かあった時の防衛手段として、大和は本名を集めているの」


 「何かあった時って?」


 舞が聞く。


 「1番は警察の手入れとか、ヤクザが乗り込んで来た時ね。警察につつかれそうになったとき、政治家を脅せば何とか手入れを免れるかもしれないでしょう。警察幹部がウチを利用しているかもしれないしね」


 「そうね。凄い世界ね」


 舞は自分の知らない世界があるのに驚くことばかりだった。


 [第7話へ続く]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る