第10話 ヤマノケ その2

翌日、山茶花が部室に入ると、慌てふためいた様子の佐々木がいた。


「やべぇぞ!まずいことになった…」

「あん?どうしたんだよ?」

「今朝から石川と連絡がつかない!」

「…マジか。昨日オレ途中まで一緒だったぞ」

「俺も昨日の夜LINE送ったんだけど既読つかなくてな。しかも今日アイツ学校来てないんだよ!休む時は絶対連絡よこすのに…」


山茶花は、うーんと考える。

しかし、何か手がかりがある訳でもない。

可能性を考えるならば、標的としていた怪異、ヤマノケに攫われた、という線が最も有力だろう。

それをお互い察していたのか、考えていたことは同じだった。


「…佐々木、おまえアイツの帰り道分かるか」

「あぁ、知ってる。とりあえずその周辺を探してみるか」



石川のいつもの帰り道である山道。

何かがあったとは思えないほど静かだった。


「おい、なんか手がかりあったか」

「いや、この辺には特に…ん?」


佐々木が何かを発見する。


「お、おいこれ!!」


それは、割れた丸眼鏡だった。


「間違いない。これ石川の眼鏡だ!」

「てことはこの辺でやられたか…。おい、なんか怪しくねぇかこの道」


山茶花が指差す道は、明らかに人が作ったとは思えない獣道だった。

それは、山の奥深くまで続いているようだ。


「行ってみるか。待ってろ石川!」

「ヤマノケか…。調子乗ったことしやがる」


生い茂る植物を掻き分けながら進む。

湿気と森の匂いでむせ返りそうだった。


「たっく、昨日せっかくキャンプセット買ったのによ…」

「まぁキャンプはまた今度にしようぜ?

……あっ!!」

「んだよ?」


おもむろにスマホを取り出す佐々木。


「思い出したっ!!俺アイツとwhoo交換してたんだった!!」

「フー?なんだそれ」

「位置情報が分かるアプリだ。なんかあった時のためにってこの前交換したんだよ!」

「最初からそれ見ろよ…」

「す、すまん。石川はどこだ!?」


アプリによると、石川はかなり山奥に居るようだ。


「よ、よかった…。電波は繋がってるみたいだな」

「でも結構深いな。しゃーねぇ、進むか」


ずんずんと山道を進む。

佐々木は厳しい山道に体力を削られ、息が上がっていた。

しかし、山茶花は少しもスピードを緩めずに突き進んで行く。

それを追いかけるのに必死だった。

だが、石川のことを思えばいくらでも根性が湧いてくるのだった。


およそ1時間ほど進んだ頃、突然異変が起こった。

さっきまで風に揺れて音を立てていた森の木々が、しん、と静まり返ったのだ。


「…なんだ?」

「なんか空気変わったな。…ん?」


佐々木が木の根元に何かがあるのを発見する。

それは、黒く毛の生えた触手のようなものだった。


「うわっ!なんだこれ気持ち悪っ!」

「…どうやら山の奥に続いてるな。行ってみるか」


佐々木は、疲労からか少し恐怖心が増していた。

しかし、当然ながら山茶花は顔色ひとつ変えずに突き進んで行く。

そんな姿を見て、また己を鼓舞するのだった。


既にかなりの山奥まで来ていた。

その時、2人はあるものを発見する。


「…なんだこりゃ」

「へ、部屋…!?」


そう、それは森の中には不自然な空間であった。

生い茂る木々がその空間だけ生えておらず、ぽっかりと部屋のように空間が広がっていた。


「しかも触手がこんなに…。あっ!あれは!!」


空間の奥の方、木の上に吊るされている者がいる。

そう、石川だ。どうやら意識を失っているようだ。


「待ってろ石川!!今助け…」


その時だった。

瞬時に異変を察知する山茶花。


「待て佐々木っ!!」


佐々木の襟を掴み静止する。


「うおっ!な、なんだよ!?…って、え…」


石川の下に集まっていた触手が蠢き出し、それは段々と人の形に変わっていった。


「な、なんだ…なんだコイツは!!」


それは、触手が人型となった異形であった。

形容し難いほど不気味なその怪異は、恐ろしく低い声で話し出した。


「……よく来たな。我が名はヤマノケ。この山を支配する神だ」

「こっ、コイツがヤマノケか!!」

「…気持ち悪ぃ格好だな」


ヤマノケは、山茶花を指差しこう言った。


「ワタシの目的は山茶花、貴様だ。横の男はどうでもいい」


2人は驚愕する。


「えっ?なんで山茶花の名前…」

「…なんだテメェ」

「大人しく殺されろ。そうすればこの男は解放してやる」


ヤマノケが蔓を引っ張ると、吊るされた石川がガクンと動いた。


「…なぁ〜るほどな。この野郎石川を餌にしてオレらを誘き寄せやがった」

「…山茶花」

「分かってるよ」


山茶花は、ヤマノケに中指を立てた。


「やだよバァ〜カ!!さっさと石川返せクソ野郎!!」

「山の神様がどうした!!やってやるぞ!!」

「…そうか。ならば容赦はせん!!」


すると、触手が刃物のような形に変化し、2人を襲い始めた。


「油断すんなよ佐々木っ!!」

「おうよ!!待ってろよ石川!!!」


2人は触手を躱しながら走る。

無造作に繰り出される刃物の連撃に、特に佐々木は苦戦する、かに思われた。

佐々木は途中で拾った太い木の棒を使い、触手を弾き飛ばしていたのだ!


「俺は中学の頃剣道部だったんだ!四段の底力を見せつけてやるぜ!!」

「…あったなぁ!光るモン!!」


ついにヤマノケの元へと辿り着く。

2人は攻撃を繰り出すが、触手で応戦される。

山茶花の拳で何度かダメージは与えたものの、佐々木が一発喰らってしまった。


「うがっ!!!」

「佐々木っ!!」


地面に突っ伏す佐々木。

だが、まだ根性の灯火は消えていなかった。


「まだ、だ…!!まだやれるぞ!!!」


すると、突然ヤマノケが笑い出した。


「クク、クククク…。馬鹿どもめ!まだ気がつかないのか?」

「…あ?」

「この山の広さを考えてみろ…」


まさか。

そう思った時にはもう手遅れだった。

空間の中にあった触手たちが一斉に蠢き出したのだ!!


戦慄する2人。

絶望的な光景であった。


「う、嘘だろ…。ヤマノケは…。ヤマノケは、

1体じゃなかったのかっ!!!」

「あ〜…。まずいなこりゃ…」


2人は、何体ものヤマノケに囲まれていた。


「この山を支配しているのはワタシだけではない。全ての分身をここに集めた。

…どうする、泣いて許しでも請うか?」


絶体絶命、果たして、この勝負の行方は。

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メリケンサックと根性で怪異を除霊(物理)するあの娘。 sid @haru201953

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