第9話 ヤマノケ
数日後のオカルト研究部部室。
昨日までとは打って変わって、広くて綺麗な
多目的室へと引っ越しが完了していた。
「すご〜い!!めっちゃ広いですよこの部屋!」
「今日からここが新しい部室になるのか…。
これも全部山茶花のおかげだな!」
そう、あれから天野は約束を守り、オカルト研究部の存続と新しい部室をプレゼントしたのだ。
当の本人である山茶花は、何やら銀色の大きい物を運んでいた。
「よっ、と…。よし、この辺でいいな」
「…えっ!?何持ってきてるんですか!?」
「何って見りゃ分かんだろ。灰皿だよ」
「灰皿って…。それコンビニとかにあるデカいやつでしょ!!」
「おう、落ちてたから拾ってきた」
「それ落ちてないですよ!あとそもそも灰皿ダメだし!!」
「ま、まぁ多少いいだろ。山茶花も頑張ってくれたことだし」
___それはそれとして、数日前、とある病室にて。
「……はっ!!」
1人の武術家が目覚めた。
彼は辺りを見渡すと、自らが置かれた状況を把握した。
「主将っ!!気がつきましたか!!」
「よ、よかった…」
そう、天野だ。
あれから、彼はすぐに病院に担ぎ込まれた。
左手の完全骨折及び不完全骨折多数、加えて全身の打撲と重傷であった。
「……そうか。負けたか、僕は…」
その言葉に、沈黙する一同。
「…おまえたち、山茶花たちとの約束を果たそう。オカルト研究部の存続と、新しい部室を用意してやってくれ」
「は、はい…」
「それと……。本日をもって、僕は空手を引退する」
驚愕し、言葉を失う空手部員たち。
「しゅっ、主将!?何を言い出すんです!?」
「…日本一と自負していた空手が、喧嘩で負けた。もはやそれまでだったということさ」
「そ、そんな…」
その時だった。
突然病室のドアが開き、一同は一斉に振り向く。
「だっ、誰だ!?…あっ!!」
その男に、空手部たちが『押忍ッ!!』と気合の入った挨拶をする。
「…ハハ、こっぴどくやられたなぁ雄信」
「とっ、父さん!」
そう、この男は天野の実の父親である、
天野 剛(あまの つよし)である。
「さっきチラッと聞こえたんだが…。空手辞めるんだって?」
「…あぁ。心に決めたさ。もう僕には、空手を続ける資格なんて…」
「…おまえが空手を辞めようが、別に父さんは止めることはしないさ。だがな、おまえは許しても、おまえの空手は許してくれるかな」
ハッとした顔で父親を見る。
「と、父さん…」
「これは土産だ。それじゃ」
籠いっぱいの果物を置き、剛は病室を後にした。
天野は、かろうじて動く右手を見つめ、そして強く握り締めた。
「僕の……空手…」
____そして、オカルト研究部部室。
いつものように、本日の部活動が発表される。
「んで?今日は何するんだ?」
「はい、今日はですね……。ある怪異についての調査と、その準備をしたいと思います!」
「ある怪異って?」
「…ヤマノケです」
驚く佐々木。
「ヤマノケだって!?」
「知らねぇな。なんだそいつ?」
「ヤマノケというのはですね、山を支配している怪異、…というより神様に近い存在です」
「神様だぁ?なんでそんなやつ退治しなきゃいけないんだよ」
「それがですね…。ちょっとこれを見てほしいんです」
石川はパソコンの画面を見せる。
それはとあるネット記事で、タイトルは『神隠しに迫る』というものだった。
「神隠し…」
「そうなんです。近くに高尾山っていう山があるでしょ?この記事には、その高尾山で行方不明が多発していることについて書いてあるんです!」
「ヤマノケがやったっていうのか…?」
「その可能性は大きいかと。おいでさまの時みたいに、もし攫われた人たちがいたら助けたいと思ったんです!」
タバコに火をつけ、足を組み山茶花が言う。
「山か…。あんま山舐めると痛い目見るからな」
「そうなんです、だから今日は色々準備したいと思います」
「準備って言っても何するんだ?」
「今からホームセンターに行って、色んなサバイバルグッズを買いまくります!!」
「な、なんだそりゃ…」
突拍子もない提案に思えたが、山には怪異以前に危険が多い。
野生動物や地形、それらの危険を回避するためにも準備は欠かせない。
3人は、ホームセンターで買い物をする。
「ライトか…。これは絶対いりますね!」
「ついでに寝袋とか買っとくか?」
「それならテントも欲しいな…。あっ、なんか椅子とかも…」
「ちょっと2人とも!それじゃキャンプじゃないですか!」
「いいじゃねぇか。天野が使える部費増やしてくれたからよ」
「そうだぜ石川、せっかくなら楽しもうぜ!」
「ま、まぁ…。そうですね!もう色々買っちゃいましょう!」
それから、必要そうなものを色々と買い、3人は帰路に着いた。
「あ、俺こっちだ。それじゃあな」
「おう、んじゃ」
「また明日ね!」
2人きりで歩く山茶花と石川。
辺りはすっかり暗くなっていた。
「…石川、おまえよぉ」
「はっ、はい?なんでしょうか」
「初めてオレと会った時のこと覚えてるか?」
「えっ、…僕が山茶花さんを勧誘した時のことですか?もちろん覚えてますよ!」
「あの時よ、オレおまえのこと投げ飛ばしたんだよ」
「あ、あぁ…。そうでしたね」
「おまえあの時、受け身取っただろ」
ポカンとする石川。
「なんか格闘技とかやってたのか?」
「いっ、いやいやいや!やったことないですよ!!」
「ほーんそうか…。それじゃあおまえ結構センスあるよ。なんか始めたらそこそこ強くなれるんじゃねぇか?」
「そ、そうなんですかね…。僕にそんな才能が……」
「…佐々木のやつもなぁ。根性はそれなりに
あんだから、なんか光るモンがあればなぁ」
石川は、山茶花を見つめ、フッと笑う。
「…んだよ」
「山茶花さん、僕らのことちゃんと見てくれてるんですね。ありがとうございます!」
「……ばっ!別にそんな訳じゃねぇよ馬鹿!!
…あっ、オレ道こっちだからよ。じゃあな」
「あっ、はい!また明日!」
夜道を1人歩く石川。
山茶花に言ってもらったことが嬉しくて、
ご機嫌で帰っていた。
「まさか僕にそんなセンスがあったなんて…!
なんかやってみようかな…」
石川の帰り道は、山道を通らなければならなかった。
山道といってもちゃんと舗装はされているが、それでも夜はかなり暗かった。
ソレは、突然やって来た。
「みつけた」
「えっ」
ポツンと、石川の眼鏡だけが、暗闇に残っていた。
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