眠気覚まし

茅ノ森ちまき

夢心地の狭間と現実

 うとうとと、話を聴いていた。

 聴こえてくる女性たちの声は非常に音楽的で、自分に話しかけていることはわかっているものの、眠りに入っていくのを止めることができなかった。

 山彦のように相槌を打ちながら、意識は心地よい春の日の中に浮いている。

 女性たちは聞いているかどうかはどうでもいいらしく、ただ自分に向かって話し続けていた。内容もきっとどうでもいいことばかりだろう。


 たまに水音がちゃぷちゃぷと聴こえてくる。

 小さな子が水と戯れて遊んでいるらしく、軽い笑い声もする。

 それらは落ち着いた女性たちの声に明るい音を添えていた。

 女性たちも子供の声に合わせて転がるような笑い声をたてていた。

 やがて子供が何かの拍子に泣き出し、泣き声と他の子供の声がだんだん大きくなることでこちらへやってきたことがわかった。

 自分に話し掛けていた女性たちは話を中断し、子供の方へ話しかけ始めた。

 泣いている子供と泣いていない子供、女性たちの間で会話が続く。

 しばらくするとその会話も終わり、再び女性たちの声が聴こえ始めた。

 しかし、今度は聞いていない自分に話しかけるのはやめたらしく、お互いで会話を進めることにしたようだ。


 カタカタと、あまり安定していない車輪の回る音が聴こえてくると、その車で近づいてきたらしい者の声がした。

 低い、落ち着いた男の声だ。男が二言三言話し掛けると女性たちは笑いながらそれに応えた。

 男はその応えが気に入ったように話を続け、女性たちは驚きと喜びを持ってそれに応えていた。

 いくつかの会話が交わされたあと、男の一言と再びカタカタという音が聴こえ始め、男が去っていったのがわかった。


 女性たちが今度は熱心に自分に話しかけ始める。

 やっと頭がはっきりしてきた。

「……お父さんたら、もう。聞いてるの?今夜近所のテーマパークで花火大会やるんだって。当然行くよね。夕方くらいには行かないと場所が取れないって。」

 なに。そんなもの打ち上げ花火なんだから、わざわざそんなところにいかんでも家からでも見れるじゃないか。出かけるのは面倒だ。

「まあ、今夜はお父さんが外でご飯食べさせてくれるって言ってるから、早めにご飯食べて……。」

 なんだその話は。そんなことを言った覚えはないぞ。ついさっき話したと?もしかして適当に返事したあれか?あれはなしだろう。なしなし。俺は聞いてない。

「なにそれー。どろぼうはうそつきの始まり。あれ?逆?」

 そんなあたりまえの言葉を間違えるな。そうだ、今夜は勉強だ、勉強。夏休みの宿題もおわっとらんのだろう。なに?自由課題のみ?甘い、甘すぎるぞ。そんな学校を選んだヤツは誰だ。

「お父さんが勧めたんでしょ。」

 むむむ。と、とにかく今日は家にいるのだ。せっかくの休みなんだから外には出なんぞ。

「おじさーん。今夜はどこに食べに行くの?」

 お、遊びに来てる兄貴のところの上の子だな。どうしたんだ、そのおでこのばんそうこうは。なに。うちの子にやられた?さっき泣いてたのはお前か。泣いてたカラスがもう笑ってるな。

「正ちゃんの好きなとこでいいわよー。何が食べたい?」

 おい、こら勝手に話を進めるな。食べにはいかんと言っただろう。なに?うちの子が怪我させてるから?まあ、そりゃ飯くらい食わせざるを得んなあ。……あ、こら、焼肉は高くつくからやめろ。

「じゃあ、おすしやさーん。」

 それも高いんだけどな。回ってるやつで勘弁してくれよ?

「ほほほ。正ちゃんはいくら好きだもんねえ。」

 またそんな高いものを……。

「寝てるあなたが悪いのよ。ほほほ。」

 ああ、もう。うるさいからみんなして笑うな!すしくらいで騒ぐな!うう。いっそまとめて夢だったら良かったんだがなあ……。

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