第52話 未来への楔〈キー・オブ・フューチャー〉
夜明けの光が差し込む頃、王都はようやく落ち着きを取り戻していた。
調整者アークとの死闘は、王都の人々に大きな衝撃を与えたが、それ以上に「守られた」という実感と希望をもたらした。
市民たちは互いを支え合い、焼けた建物の修復や負傷者の手当を始めている。
その姿を見て、蓮は胸を撫で下ろした。
「……大丈夫そうだな」
「ええ。市民の結束は思った以上に強いわ」
イリスが柔らかく微笑む。
「あなたが作った国だからよ。人々は“自分の居場所”を信じているの」
蓮は少し照れくさそうに頭を掻いた。
「いや……俺はただ、逃げ場を作っただけだ。でも、こんなふうに守りたいって思える場所になったのは、みんなのおかげだよ」
◆ ◆ ◆
広場に集まった仲間たち。
リーナは剣を磨きながら、戦いの余韻を振り返る。
「……アークって人、最後に少し笑ってたよね」
「ええ。あれはきっと、“器”としての束縛から解き放たれた証だった」
イリスの声には、どこか切なさが滲む。
「でも、彼が言ってた“均衡”ってやつ……放っておけないよな」
カイエンが腕を組んで唸る。
「確かに。均衡が人を器にするってことは、今後また別の“調整者”が生まれる可能性がある」
ミストが冷静に補足する。
「それって……結局、終わりがないってこと?」
ネフェリスが不安そうに問いかける。
「終わりがない……けど、それは同時に“未来を繋ぎ続ける試練”でもある」
蓮が言葉を返す。
「だからこそ、俺たちはこの国を未来への楔にするんだ」
◆ ◆ ◆
蓮は無限アイテムボックスを開き、戦いの中で回収した黒い結晶を取り出した。
それはアークが最後に残した欠片――均衡の中枢と繋がっていた証だ。
「これは……?」
ノアが目を凝らす。
「恐らく、“均衡の楔”。世界を繋ぎ止めるために生み出された媒体だ」
ミストの解析が続く。
「ただし、本来なら完全に消滅するはずのもの。残っているということは……彼が自ら意思を残そうとしたのかもしれない」
蓮は結晶を手のひらに収め、静かに呟いた。
「アーク……お前は器じゃなく、一人の人間だった。なら、この欠片は……未来への道標になる」
その瞬間、結晶が淡い光を放ち、空へと小さな星屑を散らした。
◆ ◆ ◆
翌日。
評議会の場に集まったのは、王都を代表する人々と、各地から合流してきた有力者たち。
蓮は玉座に座るのではなく、同じ高さの席に腰を下ろし、議論の輪に加わっていた。
「我らの国は今、均衡という存在に試されている」
蓮は語り始めた。
「だが、均衡は敵ではない。世界を保とうとする力だ。問題は……そのやり方が、あまりにも理不尽で、犠牲を強いるということだ」
重い沈黙が広がる。
しかし、リーナが立ち上がり、力強く言った。
「だからこそ、私たちが証明しなきゃならないんだ。この国が“破滅の因子”なんかじゃなく、“未来を紡ぐ楔”だって」
カイエンも頷く。
「民が笑い、共に働き、守り合う……それが続けば、世界も認めざるを得ないだろう」
「そうね。私たち自身が未来を示す証拠になるのよ」
イリスの言葉に、場の空気が少し和らいだ。
◆ ◆ ◆
会議の最後、蓮は仲間たちに向かって宣言した。
「これから俺たちは、国をもっと広げ、強くする。均衡が再び調整者を生もうとするなら、その前に――俺たちが“未来を守る意思”を世界に刻むんだ」
その言葉に、仲間たち全員が頷いた。
均衡の真実を知った今、この国はただの逃げ場ではなく、本当の意味で未来を繋ぐ場所へと変わろうとしていた。
アークが残した結晶は、玉座の間に飾られた。
それはまるで、次なる時代を照らす楔のように、淡い光を放ち続けていた。
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