第25話 帝国の報復
夜明けの戦場に静寂が訪れた。
黒炎の猛将バルザークを撃破したことで、黎明国の人々は歓喜に包まれた。
だが、蓮の胸の奥には冷たい予感が燻っていた。
「帝国が、これで終わるはずがない……」
戦いを終えた蓮は、仲間たちと共に王都へ戻る途中でそう呟いた。
◆ ◆ ◆
王都では、市民が英雄たちの帰還を待ちわびていた。
バルザーク討伐の報せは瞬く間に広がり、人々の不安は希望へと変わりつつあった。
「蓮様だ! 本当にバルザークを倒されたのか!」
「これで帝国の脅威から解放されるんだな!」
街は歓声で沸き立つ。
しかし蓮は、浮かれる気持ちを抑えて冷静に口を開いた。
「皆、安心してくれていい。でも油断はしないでくれ。帝国は必ず報復を仕掛けてくる。俺たちの戦いは、まだこれからだ」
その声に、人々の熱気は少し和らぎ、緊張感が戻る。
それでも彼らの瞳は、蓮を信じて輝いていた。
◆ ◆ ◆
同じ頃――帝国の首都。
玉座の間には冷たい空気が漂っていた。
「……バルザークが敗れただと?」
帝国皇帝グラディウスの声が響く。
玉座に座す彼の顔には怒りよりも冷徹な計算が浮かんでいた。
周囲に控える重臣たちは息を呑み、沈黙する。
「愚将め。だが良い……むしろ好機だ」
皇帝は立ち上がり、玉座の間を歩く。
「蓮という異世界の存在が、我らの前に立ちふさがる。ならば利用すればいい。奴を倒すのは簡単ではない……だが、世界を動かす駒はそれだけではないのだ」
皇帝の隣に立つのは、帝国の宰相シェルドン。
細身の体に冷たい目を宿し、柔らかな声で応じる。
「既に準備は進めております。南方の属州から兵を集め、東方の魔導研究所では“禁忌兵器”の開発が急がれております」
「禁忌兵器……?」
側近の一人が震える声を漏らした。
宰相は口角を上げる。
「ええ。神代の遺産を基にした兵器です。まだ未完成ですが、蓮たちに対抗する切り札となりましょう」
「よかろう」
皇帝は冷たく笑った。
「黎明国を滅ぼすのは一度ではない。恐怖と混乱を与え、民心を揺さぶる。やがて奴らは自ら滅びへと歩むのだ」
玉座の間に重苦しい笑い声が響く。
◆ ◆ ◆
一方、黎明国の王都。
蓮は仲間たちと作戦会議を開いていた。
「帝国の次の動きは必ず速い。俺たちが勝利したことで、逆に奴らの危機感は強まったはずだ」
リーナが真剣な表情で頷く。
「蓮の言う通りだと思う。帝国は軍事力だけじゃなく、政治や工作でも揺さぶってくるはず」
カイエンは腕を組んで唸った。
「俺が帝国の将なら、直接攻め込む前に周辺諸国を切り崩して孤立させるだろうな」
ミストが手元の資料をめくり、分析を加える。
「情報によれば、帝国は南方に大規模な兵を集めているわ。しかも“禁忌兵器”という未知の戦力を開発しているという噂も……」
「禁忌兵器……?」
ネフェリスが顔を曇らせる。
「それって、また虚神とか古代の遺物みたいな危険なやつ?」
「可能性は高いな」
蓮が静かに答えた。
「だが、何であれ立ち向かうしかない」
◆ ◆ ◆
その夜。
蓮は城のバルコニーから夜空を見上げていた。
満天の星々は、かつて星詠の神殿で見た光景を思い出させる。
神々が残した記録、虚神との戦い、そして「再生」の選択。
背後から足音が近づき、イリスが現れる。
「眠れないのね」
「……ああ。帝国の動きを考えると、どうしてもな」
蓮は苦笑する。
イリスは静かに寄り添い、同じ空を見上げた。
「でも、あなたは一人じゃない。仲間がいる。黎明国の人々がいる。そして……私も」
蓮は彼女の言葉に小さく頷いた。
「ありがとう、イリス。……絶対に守り抜く。この国も、仲間も、未来も」
夜風が二人を包み込み、星空が静かに瞬いていた。
◆ ◆ ◆
そして翌朝。
国境付近から急報が届いた。
「帝国軍が……動き始めました!」
報告に、蓮は鋭く目を光らせた。
「来たか……!」
帝国の報復が、ついに始まろうとしていた。
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