第8話 黒牙将軍ドルガ
黒い甲冑をまとった巨躯が、大剣を振りかざして迫ってくる。
その圧倒的な威圧感に、空気が震えた。
「小僧……貴様の名は何だ?」
蓮は剣を構え直し、息を整える。
「――蓮。俺は、この国の代表だ」
「国、だと……?」
将軍ドルガの口元が嗤いに歪む。
「笑止! 寄せ集めの村人が国を名乗るか。だがいい、ならばその国の夢ごと叩き潰してやる!」
大剣が振り下ろされ、地面に衝撃波が走った。
砂煙が舞い、蓮はその中を転がるようにかわす。
「速い……いや、重い!」
一撃ごとに大地が割れ、木々が吹き飛ぶ。
ドルガの膂力は人の域を超えていた。
◆ ◆ ◆
一方、防衛線ではリーナが敵兵を斬り伏せ、仲間を鼓舞していた。
「持ちこたえて! 蓮があの将軍を止めてる!」
だが、兵士の数は多い。
柵は所々破壊され、村の中にまで敵が流れ込もうとしていた。
「ネフェリス、治療を急げ!」
カイエンが叫ぶ。
「わかってる!」
ネフェリスが歌うような声で魔法を紡ぐと、負傷者の傷が瞬く間に癒えていく。
彼女の魔法は、戦場に一筋の希望をもたらしていた。
「ノア、火力を上げられるか!」
イリスが問いかける。
「やってみる!」
ノアは魔導装置に追加の触媒を組み込み、火球の連射を開始した。
炎の嵐が敵兵を薙ぎ払い、防衛線はぎりぎり維持される。
しかし――全ては蓮とドルガの戦いにかかっていた。
◆ ◆ ◆
蓮は必死に剣を振るい、ドルガの猛撃を受け止める。
だが、剣が軋み、腕がしびれる。
「力比べでは勝てない……!」
蓮は後退しつつ無限アイテムボックスを開いた。
そこから取り出したのは――閃光筒と、特殊な鎖。
「また小細工か!」
ドルガが大剣を振り上げた瞬間、蓮は閃光筒を地面に叩きつけた。
閃光が弾け、視界を奪う。
その隙に蓮は鎖を放ち、ドルガの腕に巻きつけた。
「くっ……!」
ドルガが咆哮し、鎖を引きちぎろうとする。
「今だ、リーナ!」
蓮が叫ぶと、リーナが背後から飛び込んだ。
彼女の剣が閃き、ドルガの鎧に深々と切り込む。
「ぐおおおおっ!」
ドルガの叫びが夜空を震わせた。
◆ ◆ ◆
敵兵の士気が一瞬揺らぐ。
その隙を逃さず、カイエンが突撃を指揮した。
「押せ! ここで勝負を決める!」
若者たちが一斉に槍を突き出し、敵兵を押し返す。
ノアの火球がさらに戦線を焼き払い、ネフェリスの回復が味方の足を止めない。
村人たちが勝利を信じ始めたその時――
「まだだあああああっ!」
ドルガが鎖を引きちぎり、暴風のごとき一撃を振るった。
リーナが弾き飛ばされ、蓮も地面に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
蓮の腕に激痛が走る。
「小僧! 力も技も、全て俺に劣る! お前に国など築けぬ!」
ドルガが大剣を振り下ろす。
だがその瞬間、蓮の視線は仲間たちを捉えていた。
必死に戦う村人たち、傷つきながらも立ち上がるリーナ、仲間を癒すネフェリス――
「……違う!」
蓮は叫び、剣を構え直した。
「俺一人じゃない! 俺たち全員で、この国を築くんだ!」
その声に呼応するように、仲間たちの力が重なり合う。
イリスの結界が蓮を包み、リーナが再び剣を振り上げる。
カイエンと若者たちが突撃し、ノアの火球が空を裂く。
ネフェリスの歌声が、蓮に新たな力を与えた。
――仲間の思いが、蓮の剣に宿る。
◆ ◆ ◆
「はあああああああっ!」
蓮の剣が光を帯び、ドルガの大剣と激突した。
刹那、轟音と共に火花が散る。
蓮の剣が押し返し、ドルガの大剣に亀裂が走った。
「なに……!?」
ドルガが目を見開く。
「これが俺たちの力だ!」
蓮は渾身の力で剣を振り抜いた。
大剣が粉砕され、ドルガの胸甲が割れる。
鮮血が飛び散り、巨躯が膝をついた。
「ば、馬鹿な……このドルガが……!」
蓮は息を切らしながらも剣を構え続けた。
「俺たちを侮ったのが、お前の敗因だ」
ドルガは嗤い、そして倒れ込んだ。
◆ ◆ ◆
将軍の敗北により、黒牙の兵士たちの士気は完全に崩壊した。
指揮官を失った兵士たちは蜘蛛の子を散らすように退却していく。
「勝った……のか?」
カイエンが呟き、若者たちが歓声を上げた。
リーナが蓮の隣に駆け寄り、支えた。
「蓮、大丈夫?」
「ああ……少し痛むが、まだ動ける」
蓮は息を整え、仲間たちを見回した。
「みんな、よく戦ってくれた。俺たちは……この村を守ったんだ」
その言葉に、村人たちは涙を流しながら歓声を上げた。
夜空に星が瞬く。
それはまるで、この新しい国の未来を祝福するように輝いていた。
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