第25話 時間稼ぎ

 ゼヒド・スクワロー……。こいつがどんなにイカれた野郎だとしても、元Sランク冒険者なんだ。今の俺がどう足掻いても、こいつには勝てない。だから、少しでもいい。応援が来るまでの時間稼ぎが出来れば。


「あーあ、なかなか笑わせてくれるじゃねえか」


 何とか、隙をつくれないか。


「いいぜ。てめえみたいな小娘に、俺を何とか出来るってんなら、やってみせろや。ヒャッヒャッヒャッヒャッ!」


 ああ! やってやらー!


 俺は、斜め上を指差した。


「あっ! あんな所に! レッドさんがいる!」


「何! レッドがいるだと!」


 馬鹿野郎が! 引っ掛かったな! 隙あり!


「風魔法! 風刃(ふうじん)!」


 俺が放った風の刃が、ゼヒドへ向かう。意表をついた俺の攻撃に、ゼヒドは一瞬、対応が遅れた。


 やったか!?


 風の刃がゼヒドに当たる瞬間、ゼヒドの姿が消えた。


 何!? 奴が消えた!? どこへ!?


「やってくれたなあ」


 右か!


 奴の気配に気付いた時には、時既に遅く。奴の拳が、俺の脇腹にヒットしていた。


「うっ!」


 俺は呻き声を上げ、床に何度も叩きつけられ転がった。


 やべえ、アバラが何本か、折れたな……。


 コツコツと、奴の足音が俺に近づく。早く、体勢を整えないと……。駄目だ……力が……。


 ゼヒドは俺の右腕を掴み、持ち上げた。


「やってくれるねえ。さっきのは、何? なかなか面白かったけどよ。レッドをダシに使うのは、頂けないねえ。俺、少し怒っちゃったよ……ね!」


「ああああああああああ!」


 俺の右腕が、炎に包まれた。


「あららら、ゴメンゴメン。俺の出す炎ってさ強すぎて、加減が難しいのよ」


 焼かれた右腕が、激痛となって俺を襲う。


「こりゃ、こっちの腕は、もう使いもんにならねえな。ヒャッヒャッヒャッヒャッ!」


 ゼヒドは掴んでいた俺の右腕を乱暴に放し、俺の体は床に崩れ落ちた。

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