その姿
酷く疲れた。
体温が上昇していたのが徐々に下がるのがよくわかる。
さっき活躍していた先輩の姿を思い出し笑顔になる。あの喜んだ顔を思い出すだけで嫌なことが吹き飛ぶ。
あっ先輩だ!体育の後片付けしている。ハンドボールのカゴを運んでいる。
その姿を目に焼き付けている時、ふと肩を突っつかれた。幼馴染の、ほぼ腐れ縁の智鶴だ。構って欲しいのかいつもちょっかいかけてくる。高校生にもなってとは思うが幼い妹のような居心地の良さも感じる。
そのせいもあり、高校入学当初おしどり夫婦と揶揄われたが今となっては呆れたのか、もうだれも言ってこない。
よくこんな童貞ガリ勉みたいなやつのそばに入れるよな…と思いながら答える。
「どうした?」
智鶴はアザラシのようなおっとりした表情で、さらっと「ずっと外見てたよねー」って言う。
「天気いいからさ」と掴みどころのない返事をした。内心ドキっとしたのを必死で隠しながら。
「そうだねー。天気いいよねー。てっきり上級生の女の子見てたのかなーって思ってたんだけど。違ったかなぁー」
「いやいや、そんなわけないよ、本当に天気いいなって。」
少し声が上擦ったのを聞き逃さなったのか、智鶴間髪入れずにニヤけながらに言う「本当に~」
「本当だよ!本当、本当疑ってるのか?」
「信じるけど~。恋の悩みならいつでも聞くからねっ!」
「だから…」
ちょうど扉が開く。先生が入ってくる。
「はーい、着席ー。」
授業が終わる。
部活の時間が始まる。
先輩は陸上部。短距離のチームリーダーらしい。
よく短距離の部で入賞している。終業式や始業式でステージに上がり賞状を受け取ったり簡易的な壮行会を行っている。
僕は図書室に行き、影からこっそり見る。本を読みながら先輩の、その走る『姿』を見る。今しか見られないであろう、その『姿』を目に焼き付ける。
夏が終わったら図書館に行く意味がなくなる。なんとなく寂しく、先輩を見る機会が減り不安も募るばかりだ。
そんなことを漠然と考えながら外に目をやる。
先輩を中心にミーティングしている。みんな真剣な表情をしている。
ふと先輩と目が合った。
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