第8話
「あ、あああ、綾ちゃん⋯⋯?」
カレンが目を丸くした。
俺の手を取って飛び跳ねだす。
「す、すごい! 綾ちゃんだよ! ほんとに来てくれた! 本物の綾ちゃんよ!」
「てか偽物とかいるん?」
感極まり意味不明なことを口走っている。
俺は突然現れた綾に向かって聞いた。
「あれ? お前帰ったんじゃないの? 行かないとかいってたくせに」
「う、うるっさいわね! 別に心配だったとかじゃないわよ!」
どうしてこんなベタなツンデレみたいな事を言うやつがモテるのか。
世の中というものは俺が思っているより単純なのかもしれない。
「自分バスケ部キャプテンです! 中学の時は生徒会長やってました!」
綾ちゃんバトルロワイヤルに決着がついたらしい。
生き残った男子生徒の一人が高々と宣言した。なんかすごいハイスペなヤツが来た。
今バスケ部体育館で練習してるんだがこんなことやってていいのか。
「オレと付き合ってください! よろしくお願いします!」
キャプテンは沙希に向かって手を伸ばしながら頭を下げた。
綾が俺より早くツッコんだ。
「いやそっちじゃないそっちじゃない」
「君めっちゃかわいいね! 一目惚れだよ」
「え、そっちじゃないよねこれって?」
「このあと一緒にトラベリングしようよ。あ、それかもうダンクしちゃう?」
バスケマンは綾を無視して沙希に言い寄る。
「うぉらあああああ!」
俺はバスケマンに向かってザンギも真っ青なドロップキックをかました。
強制ダウンを奪ったすきに沙希の無事を確かめる。
「大丈夫か沙希! 助けたぞ! 俺が! 頼れる彼氏が!」
「別れる」
「いやなんで?」
「暴力よくない」
沙希は冷静だった。
見知らぬ相手をドロップキックするやべーやつでも「ヤダウチのカレPかっこいい⋯⋯」と盲目的になったりしない。できた子なのだ。
「くっそぉ⋯⋯彼氏いるのかよ」
キャプテンは起き上がった。意外にタフだ。大股に綾に詰め寄っていく。
「そしたら綾ちゃん! オレと付き合ってください! よろしくお願いします!」
「しゃああああ!」
綾はすかさず脳天唐竹割りを放った。
「そしたらってなんだよオラァ! 滑り止めで告白すんなや!」
怯んだところに回し蹴り。相手は画面端まで吹っ飛んだ。
綾はコ◯ンのなんとかお姉ちゃんに憧れて空手を習っているという本格派である。部屋にメダルとかいっぱい飾ってある。
「ちょっと練習台になってよ」で半殺しにされたこと数しれず。
自分の命を守るため俺も強くなった。
「はぁ、綾ちゃんカッコいい⋯⋯」
カレンがうっとり見とれている。俺は怖い。
「⋯⋯ねえねえどうしよう。私もコクっちゃおうかな? 綾ちゃんどんなリアクションすると思う? ぶたれるかな? お尻蹴ってくれるかな? ねえねえねえ⋯⋯」
ささやき声で耳をこしょこしょしてくるのやめてほしい。
あと腕に胸当ててんのよするのもやめて。
傍目にはいちゃついているように見えるのかもしれない。
残り二人からの鋭い視線を感じる。殺気を感じる。
俺はカレンの肩を押し返すと綾に振った。
「このお方が綾に話があるらしいぞ」
「この人⋯⋯? えっと⋯⋯どなたです?」
綾も面識がなかった。なんか怖くなってきた。
「あっ、その、別にどうしたいっていうんじゃなくて、ただ気持ちを伝えたくて⋯⋯」
出ためんどくせえやつ。
「あたしそういうの苦手なんで⋯⋯はっきり言ってくれません?」
「あっ、いいんですいいんです。私は遠くから見守ってるだけで⋯⋯」
「それってストーカーでは」
「あぁっ、綾ちゃんのツッコミ、いいっ⋯⋯」
カレンは体をのけぞらせて変な声を上げる。
「あの、やっぱり私にもツッコんでくれませんか? そのぅ⋯⋯お尻を強めに蹴ってもらえればいいので!」
いよいよ見るに耐えなくなってきた。
俺は珍獣でも見るような目で立ちつくしている沙希の目元を手で覆った。
「沙希ちゃん見ちゃだめ。聞いてもだめ」
沙希はくるっと俺を振り返った。
じっと見上げてくる。いつものアレが出そうな予感がする。
「はやくアニ◯イトいこ?」
「いやマイペースすぎん?」
「別れる」
沙希は言うだけ言うと、すたこらと歩いていってしまった。
俺は慌てて後を追うことにする。
「じゃ、綾さんあとはよろしく」
「いや嘘でしょここで!? あきらかに途中だよね? ちゃんとオチつけてって!?」
俺には着地点が見えなかったけど、きっと大丈夫。
彼女ならやってくれるさ。
彼女に別れると言われたので幼馴染に相談してみた 荒三水 @aresanzui
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