第5話
「る~る~る~♪」
今日は学校の近くで朝から沙希に出くわした。
愛しの彼ピと一緒に登校できてすっかりご機嫌だ。
「るる~♪」
隣を歩きながら鼻歌なんて歌っている。かわいいやつだ。
「る~別れる~~るる~♪」
「やめようかその歌」
不吉な鼻歌だった。
下駄箱で靴を履き替えようとすると、戸を開けた拍子にひらりと紙切れが落ちた。折りたたまれた紙はハート型のシールで封されていた。
これはもしや⋯⋯噂に聞くラブレターというやつでは?
彼女ができた途端にモテ始める。モテる男がひたすらモテるという正のスパイラルに入ったのかもしれない。
『彼女いるくせに綾ちゃんとイチャイチャしてんじゃねえよこのピーーーーー(放送禁止用語を含む罵倒の羅列)』
なんじゃこりゃあああああ!
と叫びたくなるのをこらえた。
罵倒の部分はおおよそ事実ではあったが、こんなものを人様の下駄箱に放り込むなど許されざることだ。SNSに上げたら炎上間違いなし。
「それなに?」
気づいたら沙希が俺の手元を覗き込んでいた。
突然こんな悪意にまみれた手紙を見たら、きっと心配するだろう。ここで彼女を巻き込むわけには⋯⋯。
などと迷っていると、沙希は俺の肩に優しく手を置いた。
「はるくん⋯⋯」
「沙希⋯⋯」
いや違う。
俺達は二人で一つ。一心同体。
隠し事はやめよう。どんな困難もこれから二人で乗り越えていくのだ。
「別れる」
「軽く見捨てないで? 一緒に困難に立ち向かおう?」
綾とイチャイチャしてる、の部分がお気に召さなかったらしい。
ねえ沙希ちゃんこれどうしようどうしよう? と意見を聞くと、沙希は表情ひとつ変えずに「捨てれば?」とだけ言った。なにその強メンタル。
沙希と別れて教室についた。綾はすでに席に座っていた。
いつもは「うぃ~」と肩パンしてから席に座るのだが、今日の俺はなにもせずに自分の席についた。
「おい」
向こうだって「おい」とか呼んでくるわけで、お互い様だ。
「ねえ」
「俺に話しかけるんじゃねえ」
「ちょっと見てよこれ。今朝下駄箱に入ってたんだけど」
綾が指でつまんでいたのは折り目のついたメモ帳だった。
『好きです♡ よかったら連絡ください♡』のあとにIDらしきものが書いてあった。
「こいつだあああああああ!!!」
俺はメモを奪って席を立ち上がっていた。
俺に罵倒の手紙をよこしたのはきっと同一人物だ。同じボールペンで書いたくさい。
俺の手紙はなぐり書きだったが、綾の手紙はまるっこいかわいらしい字だった。
「これ、連絡した?」
「してないよ。するわけないじゃん」
「俺登録していい?」
「⋯⋯なにする気?」
俺は通話アプリの自分の名前を「綾たん」に変えてIDを登録した。
『こんにちは綾たんだよ』とメッセを送ると、『え、本物ですか?』と即レスが来た。
『綾たんスマホ使うの苦手だから、直接会って話したいな♡』と綾をゴリラ設定にして相手を呼び出す。
俺は完全に綾になりきり、放課後に体育館の裏で、という話に持っていった。
「直接会ってボッコボコにしてやるよ。綾も一緒に制裁加えてやろうぜ」
「いや、ていうかあたし行かないからそんなの」
「え、じゃあ俺もいいやめんどくせ」
「沸点5度か」
意味不明なツッコミをされた。
俺がもらったラブレターを見せたら綾は「そのとおりじゃんウケる」と爆笑していた。サイコパスやん。
なら俺一人でもやってやる。
放課後になると沙希のほうから教室に俺を迎えに来た。
帰りにアニ◯イト寄っていく約束をしていた。校門を出るときになんとなく時間を確認しようとスマホを取り出すと、メッセージが来ていることに気づいた。
『体育館の裏つきました』
『ずっと待ってます♡』
朝に釣ったことをすっかり忘れていた。
いや学校の一日って長いじゃん?
どうしようか迷ったが綾にその気がないのは明白だった。それどころか若干不気味がっていた。
ならば頼りになる幼馴染として、その旨しっかり伝えるべきだろう。
「ごめん沙希、ちょっと用事思い出したから待ってて」
「別れる」
「沸点5度か」
お決まりのイチャイチャをしたあと俺は体育館裏に向かった。
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