第2話
とある日の昼休みの教室。
俺は後ろの席の綾と昼食をともにしていた。
「はぁ⋯⋯まいったよ」
「なに? また?」
昨日のことだ。
部屋で一緒にゲームをしていたら、唐突に彼女の沙希から「別れる」と言われた。
「でも途中まではかなりいい感じだったんだよ」
「ふぅん?」
「仲良くゲームやってて、負けたほうがほっぺにチューね、なんてやってて⋯⋯」
「ん? あたしなにを聞かされるこれ?」
「流れでこれはいけるかもと思って、胸触ったら⋯⋯」
「さ、触ったら?」
「『えっち』って言われたけど、でも拒まれる感じでもなかったから⋯⋯」
「なかったから⋯⋯?」
「ここから先は課金が必要です」
「はぁ? ふざけんな、お前が金払え! こっちは聞いてやってんのに!」
綾は急に我に返ったように顔真っ赤でわめきだした。無課金でゲームやってガチャ出ないってキレてるやつはしょせんこのレベルなのだ。
「で、結局いつもの別れるムーブですよ」
「もう別れたら? ガチで」
「だから今回はもう突き放そうかと思って」
「へえ?」
甘やかしすぎるのもよくない。
俺自身、あの別れるモンスターを生み出してしまった責任を感じている。
「あれ? 来たよ」
綾の視線の先、教室の後ろの戸からよく見慣れた女子生徒が入ってきた。
まっすぐ俺達のいる席まで近づいてくる。俺は目の前で立ち止まった沙希にきいた。
「なに? なんか用?」
「お弁当。作ってきた」
沙希がお弁当箱を差し出してくる。
すでに昼飯は食ったあとだった。
が、あの沙希が俺にお弁当を作ってきてくれるなんて初めてのことだ。
「おい綾! 沙希がお弁当! お弁当作ってきてくれた!」
俺は綾に見せびらかすようにして弁当箱の蓋を開けた。
中には白米とウィンナーがぎっちり詰まっていた。綾が目を細める。
「なにこれおかずウインナーだけ⋯⋯? なかなかパンチきいたお弁当ね⋯⋯」
「いやいや学生が作る弁当なんて実際こんなもんだろ?」
「めっちゃフォローするじゃん。突き放しは?」
「ウィンナー焼けるなんてすごいぞ沙希」
「それ遠回しにバカにしてない?」
沙希はかたわらに立ったまま、黙って綾をじっと見下ろしていた。
視線に気づいた綾が沙希を見上げて、二人が見合う。
「ウィンナーべんとう。うぃなー」
沙希はぼそっと口にすると、拳を高く突き上げた。
「誰がルーザーじゃゴラァアアア!!」
いきなり綾がブチ切れて席を立ち上がった。
今にも沙希に殴りかかりそうな勢いだったので俺は慌ててなだめに入る。
「待て待て待て、綾が負け幼馴染とかそんなこと言ってないだろ」
「言ってるじゃないのよ! 補足説明してんじゃねえか!」
「ただの被害妄想だろ。てかそもそもお前って俺のこと嫌いじゃん?」
「へ? そ、そりゃ⋯⋯そうよ? だから何言ってんのって話」
綾は素直に引き下がった。
沙希はそんな女いいでしょと言わんばかりに俺の視界を塞ぐように立った。
指でつまんだウィンナーを俺の顔の前に持ってくる。
「食べて。あーん」
「いや手づかみて」
「別れる」
「ここであーんはきついっすわ」
「別れる」
らちがあかないのでとりあえずあーんして食べた。
周りの目を気にしたら負けだ。
「沙希にもあーんして」
「やだよ」
「別れ⋯⋯んっ」
言わせる前に俺はウインナーを沙希の口に入れた。
棒状のものを喉奥に押し込まれた沙希が「んんっ⋯⋯♡」と声を漏らす。急にエロい。しかし眉をしかめた上目遣いの目は間違いなく「別れる」と言っている。
「どう? 俺のウインナーおいしい?」
返事のかわりに沙希はがぶっとウィンナーを噛みちぎった。つい股間が縮み上がりそうな歯の立て方だ。
沙希はもぐもぐしながら無言で俺のスネにローキックをかますと、教室を出ていった。
俺は一部始終を眺めていた綾に笑いかけた。
「な、かわいいだろ?」
「さっさと振られろ」
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