第2話やってねーし!旦那の叫び
---
### 第2話 やってねーし!旦那の叫び
人混みに溶け込むなんて、ちょー簡単。誰もがパニックで、自分の身を守るのに必死。血の付いたナイフを握る旦那と、涼しい顔でその場を去るアタシ。誰も、紐付けて考えるヤツなんていない。
角を曲がって、もう一度だけ振り返る。ああ、もう囲まれちゃってる。警察の制服って、なんであんなに目立つのかな。遠くからでも、旦那が数人に取り押さえられてるのが見えた。なんか叫んでる。口の動きで分かる。
「やってねーし!」
ウケる。ハハハ、声出して笑いそうになっちゃった。アンタがやったんじゃん。その手に持ってるモノ、なーに? 説明できるもんならしてみなよ
わたしは鼻歌まじりで、さっき旦那と入ろうとしてたカフェに向かう。テラス席に座れば、あの騒ぎが遠くに見える特等席。店員さんが「外、すごい騒ぎですね」なんて話しかけてきたから、「ほんと、物騒ですよねぇ」って完璧な笑顔で返してやった。
注文したのは、もちろんあそこのタルト。フォークを入れると、サクッて小気味いい音がする。甘酸っぱいベリーのソースが口の中に広がって、最高に美味しい。こんなスリルの後だと、なんでも美味しく感じるのかな。
スマホを取り出して、ニュースサイトを開く。もう速報が出てる。
『【速報】銀座の路上で男性刺される 通り魔か 身柄確保』
タップすると、現場の映像が再生された。ああ、映ってる、映ってる。
「俺じゃない! やってねーし!」
地面に押さえつけられながら、必死に叫ぶ旦那の顔がドアップ。髪は乱れて、高級ブランドのシャツも汚れちゃって、まあ無様。その横には、血の付いたナイフが証拠品として置かれてる。アタシが丁寧に握らせてあげたやつ。
指紋、べったり
あのナイフ、もともとは犯人が持ってたやつだけど、アタシが一度握って、旦那に押し付けた。犯人の指紋と、旦那の指紋。アタシのは? 残ってるわけないじゃん。犯人を仕留めた後、わざと服の袖でグリップを拭いてから渡してあげたんだもん。親切でしょ?
これでアンタは、通り魔を殺した正義のヒーローじゃなくて、ただの通り魔。しかも二人殺した極悪人。
死刑確定じゃね? とアタシ。
今まで散々、好き勝手やってきた罰だよ。アタシ以外の女と遊んで、嘘ばっかついて。ぜんぶ、ぜーんぶアンタのせい。アンタが悪い。
タルトの最後の一口をゆっくり味わいながら、わたしは考える。
旦那の口座から、いくら引き出せるかな。あのマンションも、車も、ぜんぶアタシのもの。ああ、どうしよう。これから始まるサイコーの自由に、身体が震えちゃいそう。
とりあえず、今夜あたり、彼氏の誰かに電話しよっかな。「旦那が捕まっちゃって慰めてほしいな」って。泣き真似でもしてやれば、みんな簡単に信じるっしょ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます