第2章 ⑮


 さやかは、ゆっくりと箸を置き、夏彦とエマをまっすぐ見据えた。

 すでに夏彦以外の三人の食事も終わっている。

 

 ………………。


 ただならない雰囲気を察知したのか不安げな表情を浮かべた始めたほのかとさくらに順に微笑みかけて、さやかが話し始めた。


「これから、どうするつもりなの?」


「どうする、とは?」


「とぼけてもダメよ、篠塚くん」


 さやかは、そう言って目の前のトレイを脇へ滑らせ、身を乗り出した。


「さくらちゃんの事――戦略生体兵器『さくら』をどうする気なの? と言う事よ」



 戦略生体兵器



 決定的な言葉が、さやかの口から告げられた瞬間だった。


「さくらさんが……戦略生体兵器…………」


 ほのかが、絶句し、その隣に座るさくらの表情が凍りつく。

 返す言葉も無くさやかを無言でじっと見つめ返すエマ。その手をそっと握り締め、夏彦は目の前の交渉相手の澄んだ瞳を見つめ返す。

 その瞳は、相変わらず小気味よいほど柔らかな光を湛えて夏彦を見つめていた。

 強引に押すでもなく、策を弄して待ちに徹するでもない、全くの自然体。

 そこにあるのは、ただただまっすぐな彼女の人格そのものだった。


(これほどの相手が過去に何人いただろう)


 そんな思いが夏彦の脳裏でちかちかと瞬いた。


「とぼけてなんていません。どうするか決めるのは、俺達では無いという意味です。もちろんあなたでも、パシフィック・サーバントでもない。さくら自身が決める事です」


「篠塚くん。いい? あなたもよく分かっているとは思うけど、さくらちゃんは、戦略生体兵器よ。警衛隊に預けておけるブンタくんとは違う」


「分かっています。俺もエマもさくらを運用する部隊にいましたから」


「それでも……と言う事なの?」


「ええ、それでもです。俺達は、さくらと共に戦い、そして、さくらを失いました。いや、さくらだけじゃない、多くの仲間を失ったんです。大阪攻防戦の事を誉先輩は、どれぐらいご存じですか?」


「直接は、知らないけど…………」


 でも――と、さやかは、僅かに俯いた。


「軍にいた私の姉が、あの戦いで戦死したの」


「そう……だったんですか……」


 悲しげな表情を浮かべたエマとほのか、そしてさくらに対してさやかは、そっと肩を竦めてみせる。


「ええ。でも、どんな任務で、どこで、いつ亡くなったのかまったく分からなくて。まあ、あの頃は、そういう人がとても多かったみたいだから、私たちだけが、とやかく言っちゃいけないんだろうけど」


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