第1章 ⑱
その時、鈴木秘書が操作していたセキュリティ端末から短い電子音が鳴った。
「どうぞ。極東方面本部長がお待ちかねです」
内向きにゆっくりと開いた扉の中へ、さやかは、意を決して足を踏み出した。
会議室内は、思った程は広くは無く、そこに居る人々の人数も思ったほど多くは無かった。
いや、実際にはあまりにも少なかったのだ。
細長い会議机を挟む人数は、たったの三人。
だが──
その顔ぶれが、ただ事ではない。
一人は、鈴木秘書も口にしたアレックス・マクドウェル極東方面本部長。
アジア極東地域における経営の責任者であると同時に、露出を極端に嫌い世間に滅多に姿を見せないこの会社のCEO(最高経営責任者)の正式な代理人でもある。いわば、パシフィック・サーバントの事実上の経営者だ。
もう一人は、マイケル・コーガン極東方面警備部長。
オフィスにあって経営の陣頭指揮を執るマクドウェルに対して必要とあれば現場にも赴き実際に人を動かすのが彼だ。パシフィック・サーバントのアジア極東地域における全軍事力を実際に統べているのは、この男であると言えるだろう。
そして、最後の一人。
(まさか、こんな人がこの会社に影響力を持っていたなんて……)
確かに、ずいぶん前から人々の口には上っていた事ではある。
だが、あまりにも信じ難かったのだ。
旧帝国海軍の山本五十六元帥の再来とまで言われたこの人が──
まさか──
「お嬢さん。私の顔がそんなに珍しいかね?」
その人物は、底抜けに人の良さそうな笑みを浮かべて茶目っけたっぷりに言った。
長年の艦隊勤務で日に焼けた精悍な顔立ちと短く刈られた頭髪。
真っ白い軍服の肩に輝く最高位を表す金色の肩章と胸元に下がった第一級金鵄勲章。
間違いない。
(連合艦隊司令長官
日本海軍の最高責任者であり第三次世界大戦勝利の最大の功労者だ。
なかば呆然とするさやかにマクドウェルが眼鏡を拭きつつ、つまらなさそうに手で椅子を示した。
マクドウェルが示したのは彼の向い、漆原海軍卿の隣の席だ。
海軍卿に軽く会釈してさやかが鈴木秘書の引いてくれた椅子に腰を下ろすと、機械化召使が暖かいココアの入ったカップをコトリと机の上に置いて無言で背後へ下がった。この律儀な召使の
さやかが、ココアを一口飲んで落ち着いたところでマクドウェルが話を切り出した。
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