第2話 くり返される水曜日

次の水曜日。

また同じ時間に、同じ席に来た。

「いつものをお願いします」

同じように注文した。

でも、今週は違う客が多かった。

カップルが来たり、友人同士が来たり。

「Solitude」という名前にしては、賑わっていた。

その時、向かいの席に、また誰かが座った。

「こんにちは」

また、その女性だった。

「あなたです...」

「私ですね」

「前週は、店主に...」

「出ていけと言われたのです。でも、今週も来ました」

「何故ですか?」

その女性は、微笑んだ。

「あなたに、何か伝えたいことがあるから」

「何を?」

「あなたは、毎週、この時間に来ます」

「はい」

「そして、誰とも話さず、一人で過ごします」

「はい」

「でも、あなたは本当は、誰かと話したいんじゃないですか?」

その言葉に、私の心が揺らいだ。

「違います。私は...」

「あなたは逃げています」

その一言が、全てを破壊した。

「何を言ってるんですか」

「人間関係から。社会から。そして、自分自身から」

「あなた、誰なんですか」

「私は...」

その女性は、言葉を詰まらせた。

「あなたです」

「え?」

「五年後のあなたです」

その瞬間、世界が反転した気がした。

「何を言ってるんですか」

「聞いてください。今のあなたが、このままでいたら、五年後、あなたはこうなります。もっと疲れて。もっと孤立して。そして、人生に絶望して」

「嘘です」

「本当です。だから、私はここに来ました。あなたを止めるために」

その女性、つまり五年後の私は、涙を流していた。

「何をしろと言うんですか」

「人と話してください。友人を作ってください。恋をしてください。社会と繋がってください」

「一人でいたいんです。それが楽なんです」

「楽は、幸せではないのです」

五年後の私の言葉が、刺さった。

その時、店主が現れた。

「失礼します」

また、五年後の私は消えた。

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