子守唄

熱に触れて、それを大事に大切にすればするほど、恋しくなっていく。いつも寝る前にはそんな事を考えてしまう。布団の中で温かさを求めるのが、あの頃の、あの子の熱を求めて許されていたことを思い出させるのかもしれない。あの頃も毎夜恋焦がれていた。焦がれて焦がれてあの子を見つけたなら、すべてが明るく見えた。すぐそばまで近づいたら、あの子からは見えない角度でも、お友達と話していても、こちらを向かないままでわたしの袖を引いて、わたしは引かれるままにおとなしく待っていた。そのうちにあの子の手がわたしの腕を誘って、いつのまにかわたしはあの子を後ろからハグするかたちになっていて、わたしは大喜びで好きなだけあの子をぎゅっとした。わたしよりすこし低い背のおかげで、ちょうどあの子のすべてがわたしの腕の中にすっかりおさまってしまうのだった。あの子は相変わらずこちらを見ないままで、抱きついているわたしの腕を上から触れていて、わたしはその一連の流れが大好きだった。あれは、あの子からわたしへの最大の許しで、最大の愛だったと思う。わたしはあの子を想うことを許されているように感じていた。あの子の暖かさと、仕草と、袖を引かれる感覚をまだ覚えている。そうだ、わたしは安心と満足との中にいながらも、心臓だけはよく動いていた。あの子のことを考えるといつもこうだけれど。あの子には響いていただろうか。あの頃のわたしの好意は、あの子に伝わっていたのだろうか。あの子はわたしのことを好きでいてくれたのだろうか。今はそうでないのが、哀しくもあるし、同時に納得でもある。人の心は移ろうもので、永遠とは幻想でしかないのだから。むしろ成されない悲願とも言えるのかもしれない。でも、ひとつだけ、わたしが覚えている限り永遠と言えるものがある。あの頃の、あの子の許しも、言葉も、笑顔も、誘いも、わたしに触れる仕草も、心だって、すべてわたしに向けられたもので、すべてわたしのものなのだ。それだけは何処に行っても、どんなに年をとっても、肌身はなさず持っていようと思う。

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さっき見た夢 海月篝 @Kaede_____

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