さっき見た夢

海月篝

色亡き風

 おかしいな、何か忘れているだろうか。何か忘れてはいけないものを忘れているような、何か問題が起きるような、そんなものの前触れの嫌な予感。やけに体がこわばっていて、お腹の底に嫌なものがたまってずっしり重くなっている感覚がする…ような気がする。うっすらとあるだけのその感覚が、家路をたどる私にずっとつきまとっている。バスを降りたばかりの体は外気の寒さに慣れていない。すっかり暗くなった外は冷たい風が吹いていて、薄着の私は寒さに震える。荷物を前に持ってきてぎゅっと抱く。ああ、今あいつがそこの角からひょっこり出てきてくれたら、きっと温かいだろうそいつに抱きつけるのに。そうできたらどんなに安心できることか。そんな事を考えていると、いつの間にか腕のなかの荷物が小さくなってしまった。寒い。冬はまだのはずなのに。

 家に着いても風が凌げるだけであまり暖かくはない。寒さから逃げるように浴室に入りシャワーを浴びる。体を洗ってから、湯船にしっかりつかって、出る。さっきよりは温かくなったな…と思うと同時にまた同じ寒さがやってくる。換気扇を回した浴室はすぐに冷やされてしまったようで、扉のすき間から冷たい風がバスタオル一枚の私を撫でる。換気扇の風の音だけが耳を打つ。私は思い出せない不吉な何かに怯えながら今日の残りを過ごすことになるのだろうか。既に手遅れになっている気がしてならない。ああ、寒い。だれか、今から訪ねてくればいいのに。外に出たらばったり会えたりしたらいいのに。抱きしめたい。抱きしめてほしい。だれか、お願い…。

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