歴代最強の闇魔法使い、死刑回避のために闇属性の子供たちを育てます。
望本まて
第1話:闇魔法使い、バレました。
ルシエル・ノクス。この国、ハイリス王国で若くして歴代最強と謳われた魔法使い。
誰もがこの男を賞賛し、慕われていた。
だが今、その男は冷たい石の牢獄に座していた。
「ルシエル様。明日視察予定だった北の森ですが、本日も行方不明者が出たとの報告がありました。」
「そうですか...では、視察を早めましょう。午後の予定は魔道具開発のみですよね。夜には開発を終わらせるので、すぐに参りましょう。」
淡々と答える声には、威圧のかけらもない。
国一番の魔力と部下にも驕らないその態度。そして何より美しいその容姿。
それこそが戦争孤児であるにも関わらず、誰一人として彼を闇魔法使いであると疑わなかった理由だった。
この世界において、闇魔法使いは万死に値する。
その理由は今から約150年前に遡る。
闇魔法使いのひとりがハイリス王国を滅亡に追い込み、当時の国王を殺害した。
だがそんな絶望的な状況から立ち上がり、闇魔法使いを倒したのが当時の光魔法使いであるヴァレンシアという少女だった。
ヴァレンシアは闇を打ち払い、国を再建した救世主として聖女として崇め奉られた。
この日を境に光属性を持つ者は信仰の対象に、闇属性を持つ者は神敵と定められた。
この歴史から、ハイリス王国の者は5歳になると属性検査が受ける。
闇属性を持つ者は幼いころから投獄され、膨大な魔力量を持つ者は処刑される。
一方で光属性を持つ者は聖女・聖職者候補として神殿に迎え入れられる。
これがこの国の秩序であり、正義だった。
では、なぜルシエル・ノクスは十九歳になるまで投獄されなかったのか。
それは、彼が闇属性を主としながらも、火・水・風・土の四属性をも操る稀代の天才だったからである。
通常、人の魔力は一属性にしか適性を示さない。
二属性を持てば“歴史に名を刻む”と称えられるほどだ。
人々は、ルシエルが四つもの属性を扱うという奇跡に目を奪われ、
誰一人として気づかなかったのだ。
彼の本質が、闇であることに。
――北の森。以前は自然豊かだったこの森は今は見る影もないほど深い霧に包まれていた。
ルシエルは自身の部下5名と、王国騎士団の一隊を率い、現地へと赴いた。
昼を過ぎた森の中はすでに陽光が届かないほど暗く、風が吹くたびに木々のざわめきが呪詛のように響いた。
「嫌な気配です、ルシエル様。」
副官のリオネルが声を潜める。彼は風属性の魔法使いで警戒心の強い青年だった。
ルシエルとリオネルは互いを見て頷き、足元の土を指でなぞり魔法陣の痕跡を確かめるとリオネルの顔はだんだんと青ざめていった。
「どうしましたルシエル殿、リオネル殿。」
「や...闇の魔法陣...」
「まさか!そんなはずが!!」
直後木々の間から低い呻き声が響いた。
形を持たぬ闇が集い、やがてそれは人の形を成した。
「闇の魔族だ!!!構えろ!!!」
騎士たちが剣を抜き、魔法使いたちが詠唱を始める。だが闇の魔族は異様な素早さを見せ、通常攻撃は軒並み当たらない。まるで影そのもののように、次々と騎士や部下を薙ぎ倒していく。
火属性の部下が命中を試みるが、速さに追いつけず、焦げた草と血の匂いが混じる。空気は重く沈んだ。
「リオネル...すみません。」
「ルシエル様!戻ってください!!退避いたしましょう!!」
必死で訴えるリオネルの声に申し訳なさそうに振り向いて、いつものように微笑みながらこう言った。
「隊を頼みます。」
彼の右手がゆっくりと宙を描くと、それは闇魔法を示す漆黒の魔法陣が浮かび上がった。
「ルシエル様!!まさかそれは...!」
次の瞬間、闇が世界を覆った。
闇魔法―黒棺。闇魔族にのみ有効な闇魔法の中でも最上位の魔法だ。
その術が放たれた瞬間、森にいたすべての闇魔族は影のように溶け、跡形もなく消え去った。
静寂が森を包み込む。だがそれは救いの静けさではない。
「ルシエル殿...今のは...」
騎士のうちの一人が震える声で問いかける。
ルシエルは答えない。わずかに目を伏せ、沈んだ声で呟いた。
「投獄...してください。」
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