第18話 天国と地獄


「黄河……俺、そこまでは……!もう大丈夫だから!」


「何が大丈夫なの。青木君が童貞かどうかなんて知らないけど、男と女は違うんだよ?男とのセックスにも慣れておかなきゃ。いざというとき白鳥とできないでしょ」


黄河はそのままベッドに膝をついて、青木の足に跨ってきた。


「大丈夫。今日は俺が動くから。次回は君が動いて?」


「いやいや、マジで!そこまではさせられないっていうか」


「あ、もしかして俺に気を使ってるの?いいよ。これも実験を円滑に進めるうえで必要なことだし」


「………!」


黄河は運営側の人間。

強く拒否できない。


黄河は全く反応していない青木のソレを掴むと、ローションで濡れた手でぐいぐいと扱き始めた。


「あ……痛ッ……はぁッ……」


「少しだけ乱暴に勃たせるよ。芯がないとさすがに挿入できない」


先程の優しいフェラとは違って、自分でもできない強すぎる刺激に腰が上がり、太腿が痙攣する。


「待っ……!黄河……!あ……は……」


「よし、こんくらいで十分。はは、ちゃんと勃起できるじゃん、青木君。もしかしてM気でもあるの?」


黄河は膝を立てて尻を浮かすと、すっかり硬くされたそれに自分の尻のくぼみを合わせた。



(……嫌だ)


「天国を見せてあげるよ?」


(……嫌だ!赤羽……!)


「!?」


なぜかその男の顔が脳裏に浮かんだ。



(………なん……で?)



黄河の尻から垂れたローションが、青木の反り立ったソレの先端に垂れたその時、



「――青木?」


「!!」



閉じた扉の向こうから、


確かに白鳥の声が聞こえた。


「……な……白鳥!?」


声が裏返る。


上に跨っている黄河も動きを止めて、ドアの方を振り返った。


「どうしたの!?」


「あ、いや。ちょっと寄ってみた。LAIN入れたんだけど」


「ごめ……見てなかった……」


どうする。

慌てて取り繕うにも、自分も黄河も下半身裸で、2人ともとても言い逃れできないソレが勃ち上がっている。


「入っていい?」


「ダメ!」

「だめだ!」


咄嗟に叫んだのは黄河と同時だった。


「――え。誰かいるの?」


白鳥の声が凍り付く。


「………えっと……」


うまく頭が回らない。

うまい答えが浮かばない。


藁をも掴む心境で黄河を見上げる。


(お前、実験の運営だろ!?どうにかしろよ!!)


しかし黄河はこちらを振り返ると、ニヤリと笑った。


「……開けるね」


白鳥の声が響いた瞬間、


バゴッ。


黄河は自分の頬を拳で殴り、


「あ、おい……!?」


ベッドから転がり落ちた。


扉がゆっくりと開く。


青ざめた白鳥が目には、


ベッド脇に口の端から血を流しながら転がる下半身裸の黄河と、


ベッドの上で見事に反り返った陰茎をテカらせた青木が映った。



「なに――やってたの」


白鳥が低い声で聞く。


「白鳥、これは違くてあの……」


青木がうろたえていると、


「………白鳥くん!!」


黄河が下半身をブラブラ揺らしながら白鳥に駆け寄った。


「部屋に呼ばれて言ったら青木君が急に……!」


「はあ!?」


叫ぶ青木を振り返りもしない黄河の口の端から、血がタラリと流れ落ちる。


「助けてくれてありがとう……!」


黄河はそう言って白鳥の手を握ると、ズボンとパンツをかき集めて、逃げるように部屋を後にした。


「…………」


白鳥は彼の後ろ姿を呆然と眺めていたが、やがてゆっくりと青木を振り返った。


「あれって、1組の黄河君だよね」


「え」


青木は口を開けた。


(あいつ……運営ってのは嘘だったのか…!?)


「頬の傷、青木がやったの?」


「違うよ。違う違う。全然違う」


青木はただ違うと繰り返した。


「あいつが、黄河が、俺が白鳥を好きなのを知ってて、男の経験がないなら練習台になってあげるって名乗り出てきたんだ」


嘘は言っていない。


「経験がない同士なら、白鳥とそういうことするときにケガさせちゃ悪いしって思って。やり方だけ、教えてもらうつもりだったんだけど」


嘘は言っていない。むしろ真実だ。


「アイツがセックスまでしようとしてきて、それでやめろって今――!そうしたらあいつ、自分で自分を殴りやがって……!」


真実しか言っていないのに、どうしてこんなに嘘くさいのだろう。

白鳥の顔も空気も全く緩和しない。


(どうする!何といえば切り抜けられる?)


「は……ハッキリ言ってフェラすんのも気持ち悪くて吐き気との闘いだったし、逆にいくらフェラされても勃たなかったしさぁ!?やっぱり好きな相手じゃないと漫画みたいには勃たねえんだなって思って!」


「……そう?勃ってるように見えるけど」


白鳥の目が細くなる。


「あ、や、これは違くて……!」


「もういい、何も聞きたくない」


白鳥はぴしゃりと言い放った。


「突然きて悪かったよ。じゃあね」


白鳥はそう言い残すと、テーブルの上にビニール袋に入った何かを置いて部屋を出て行った。



「………」


あまりの事態に前髪を掻き上げながら、傍らに転がっていたスマートフォンを開いた。


【青木、今部屋?】


彼が言った通り、白鳥からLAINが入っていた。


【顧問の先生がみんなにプリンくれたんだよ!余ったやつ貰ってきたから、一緒に食べよう!】



「…………」


青木は立ち上がり、ビニール袋の中に入った2個のプリンを確認すると、人生で一番大きなため息をついた。







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