白き制裁のDRAGONEWT
此岸之 芥
アマシスタ護衛団編
第一章 濡れ衣
第1話 俺はお花が好きってわけじゃねぇ
ティアランド学園にいる奴は、どいつもこいつも噂や見た目で判断しやがるクズばかりだ。
俺が廊下を歩いているだけで、生徒たちは避けるように道を開け、まるで魔物でも見ているかのような目を向けてきやがる。
「アイツが噂のタイト・アイアンローズかぁ、怖ぇー」
「目が合ったら殺されるわよ」
前方にいる生徒たちが、俺の方を見てコソコソとそんなことを言ってきた。本人たちは聞こえてねぇと思ってんだろうが、その言葉はしっかりと俺の耳に届いていた。
うっせぇんだよ。
チラリと鋭い視線を向けると、先ほどまでコソコソと話していた連中は顔を背けて黙りだす。見られただけでそんなにも怖がんなら、最初から変なこと言ってくんじゃねぇって話だ。
俺はそんな生徒たちがいる廊下を抜け、正面玄関から校舎の外に出た。
空気が揺らぐほどの強い日差しに思わず目を細め、日差しを遮るように黒い手袋をはめた左手で目元を覆った。
「あっちぃ」
日向を避けるように校舎の壁沿いを歩いていき、校舎裏にたどり着く。そこには、色とりどりのお花たちが咲き誇る自慢の花壇が広がっていた。
「今日もやるか」
俺は額の汗を拭い、花壇に生えている目立った雑草を取り始める。暑さのせいか、花壇の土が昨日よりも乾燥して固くなっていた。
これだと水が染みこみにくいかもなぁ。
そう思った俺は、腰に携えていた短剣を鞘から引き抜いた。短剣の刃は純白の鱗でできており、短剣としては物足りないくらいに小さい。そんな刃を固い土に刺して、土をほぐすことにしたのだ。
(ちょっとアンタ! なにしてんの!)
グサッと土に刺すと、脳内に甲高い怒鳴り声が響き、思わずこめかみを押さえた。
「ドラコ、起きてたのか」
(起きてたのか、じゃないわよ! なに勝手に私の
「ダメなのか?」
(ダメに決まってんでしょ! 私は
「それは悪かった。次からは許可を取ってから土をほぐすよ」
(土をほぐすな! いい? 次私で土をほぐしたら、一生私の力は貸さないから)
「わあったわあった」
ドラコについた土を払い鞘に戻す。
それから俺はお花たちに水をやるため、井戸へ向かった。井戸から汲んだ水を木桶に入れると、また花壇へ戻る。これをあと往復七回はやるつもりだ。
(アンタって、似合わないことやるわよね)
お花たちに水を撒いていると、ドラコがそんなことを言ってきた。
「昔よく、姉さんとこうやってお花を育ててたんだよ」
脳裏に浮かぶのは、笑顔でお花に水を撒く姉さんの姿だった。
「お花の世話をしている時だけは、まだ姉さんがそばにいるような気がするってだけだ。べつに俺はお花が好きってわけじゃねぇから、勘違いすんなよ」
(ふ~ん。それにしてはお花って可愛らしく呼んでるじゃない)
「ち、ちげぇよ! これは姉さんの言い方が移っただけで――」
「ちょっとキミ!」
爽やかな男性の声が聞こえた。振り返ると、透き通るような白い肌をした男性を先頭に、数人の先生がこちらに寄ってきていた。
「タイト・アイアンローズさんですよね?」
「そうですけど、なんすか?」
「多くの生徒からキミが花壇に危険物を隠していると報告が入ったんです」
「はぁ?」
あまりにもでたらめな話に、すっとんきょうな声がこぼれた。
(コイツらなに言ってんのかしら)
「タイトさんもご存じだと思うのですが、最近この学園内に小型の罠を仕掛ける悪い子たちがいるみたいでしてね。私たち先生が何も対応しないわけにもいかないんですよ。申し訳ないんですけどこの花壇、調べてもいいですか?」
「普通に嫌なんすけど」
調べるってことは、土を掘るってことだろ。
そんなことしたら、せっかく育てたお花がダメになるだろうが。
コイツら、馬鹿じゃねぇのか。
「ラ、ラリマー先生、む、無視して調べましょうよ」
とんでもないことを言いながら、ラリマー先生の背後から女性が現れた。その女性の髪はぴょんぴょんと所々はねており、目の下にはうっすらとクマが見られた。
「モリオン先生……」
「ぜ、絶対怪しいですよ。だ、だって私、彼が小動物を殺して校庭に埋めていたという話を何度か耳にしましたし」
モリオン先生の言葉を聞き、思わず舌打ちが漏れる。
どいつもこいつも、噂だけで判断しやがって……。
モリオン先生に、ありったけの怒気を込めた鋭い眼光を向けた。するとモリオン先生は「ヒッ⁉」と小さな悲鳴を上げ、逃げるようにラリマー先生の背中に隠れる。
「モリオン先生、噂で生徒を判断するのは良くないですよ。タイトさん、花壇を調査させてもらえませんか? キミのためにも、それが良いと思います」
ラリマー先生の話を聞いていると、先生たちの後方に三人の人影が見えた。そいつらは、俺の方を指さして楽しそうに笑っていやがった。
アイツらは……そういうことかよ。
俺はその三人から視線を離し、花壇を見た。いつ見ても綺麗なお花たちだ。これから先生たちに荒らされることを考えるだけで自然と手に力がこもる。
そんな俺の気も知らないで、先生たちは疑いの目を向けてきた。しかし、ラリマー先生だけは真っ直ぐと俺の目を見ていた。
「ッチ」
どうせ、なに言っても無駄なんだろ。
「勝手にしろよ」
俺は持っていた木桶をラリマー先生の足元に投げ捨て、その場を去ったのだった。
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