クラゲはいつも
ねこくらげ
クラゲはいつも
クラゲはいつも考えている。どうすれば得をできるのか。
ここで捨てられた空き缶を拾えば、自分の人徳につながるのではないか。
ここで優しくしておけば、相対的に私の評価が上がるのではないか。
クラゲは存外性格が悪い。優しそうなことばっかりするが、時々鋭いものでついてくる。
クラゲは言った。
『自分の放つ毒は故意的なものと無自覚のものがある』と。
__だがその毒はクラゲにしか見分けられない。クラゲの中身は神しか知らない。
深層心理で考えたことはクラゲにもわからない。深層心理で生成された悪意にはクラゲは気づかない。
クラゲは何も知らない。
知らないからこそ、いつも考えている。
クラゲの守備範囲は結構広い。境界はあやふやだから滑り込めもする。
それにクラゲの海馬は小さい。自分が嫌いな人間の嫌いな部分もいずれ忘れ、またふわふわ漂ってくる。
クラゲの周りはいつも毒々しい。クラゲ以外から拒絶されたから、クラゲの周りに集まっている。
クラゲはいつも考えている。
どうして自分の人生を自分で決められないのか。
自殺したのには、必ずしも周りの要因があって、自身もネットという深海でその要因になっているかもしれないのに、なぜそれを良くないと言えるのか。
飛び降り自殺。電車が遅延したことよりも、自殺を試みた人がいることの方が重要なのに。
人間は怒ることしかしない。
殺人事件。死刑になりたかったと供述すると、身勝手だと言われるけれど。
犯人だってまた、ひどく苦しい思いをしたのだろう。
でも人間は知らん顔する。クラゲのように考えればわかるのに。
クラゲはいつも考えている。
この世に絶対的正義も絶対的善もないのだと。
クラゲはいつも思っている。
もし生まれ変われるのならば、今度はもっと楽になりたいと。
クラゲは思っている。
この世の平均はあやふやだと。
全部を足して全部で割って出てきた数値を平均と言っているだけで、それは決して当たり前ではないと。
平均に届かなかった人もたくさんいるのに、人間は見上げることしかしない。
クラゲはいつも考えている。
歳を重ねるごとに、人は厳しくなっている。
でもそれはクラゲも一緒。
クラゲも人間も、優しくはなれない。
クラゲはいつも考えている。
こんな世界早く滅べばいいと。
誰が死のうと関係ないわけではないけれど、とりあえず滅んでほしい。
この世界の毒はクラゲには強すぎたから。クラゲはこの頃お腹がいたい。
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