もう一度、春に会えたら

アクリル

第1話

いつからか僕は真っ白な世界にいた。

光はあるのに影はないような、音も響かない静かな世界。


至って平凡な白に囲まれた正方形のこの部屋では、欲しいと思ったものはなんでも出てくる。

ただ1つ、人間を除いて。

ここに僕以外の人間は居なくて、それだけはどれだけ想像を膨らませても生まれてこなかった。


でもしばらくはなんでも出てくるこの部屋に満足していた。

ゲームもアニメも漫画も、やろうと思えば絵を描いたり楽器を弾いたりすることだって出来た。

食べたいと思えば料理やスイーツだって出てくる。

不思議とお腹は空かないけれど。


そんな空間を謳歌していた僕だが、最近はどこか寂しさを覚えるようになってきた。

ここに来てから会話をすることは1度もなかったし、それに違和感を覚えることもなかったが、

思えば僕は何歳の誰で、どんな親から産まれてきたのかも思い出せなかった。

僕はいったい何者なのだろうか。

そんな底知れない不安が背中にずっとこびり付いているようだった。


でもモヤのかかった記憶の中で、唯一覚えている人物が居た。

名前は思い出せないが、顔はよく覚えているし、あだ名なのだろうか、「てっちゃん」と呼んでいたような気がする。

そして何故か僕はその曖昧な存在に、とても今会いたいと思った。

会えばこの寂しさが、無くなる気がした。

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