綾香は色気がありすぎる

『こんばんは』

『こんばんは、天斗君……どうしたの? 礼儀正しいね』

『俺はいつだって礼儀正しいぞ……。明日なんだけど、家の近くで待っててくれるか?』

『え? 普通に街中での待ち合わせでいいよ?』

『いや、そこまで迎えに行く。何かあったら嫌だしな』

『嬉しいけど……心配しすぎじゃない?』

『心配なんてしすぎて悪いことはないだろ? 初めて一緒に出かけるんだし、俺も色々と手探りなんだ……それに、何かと綾香は面倒事を引き込みそうなタイプだし』

『どういうこと!?』

『とにかく心配だから、俺を安心させるために迎えに行かせてくれ』

『……うん、分かった』


 ▼▽

 昨晩、少し強引だったかなと少し反省した。

 一応夜に集合場所だったりを話すつもりだったが、元々綾香の家まで迎えに行くつもりではあった。

 中里とのことがなければ普通に街中で待ち合わせもしただろうけど、俺に向いているヘイトが綾香に向かないとも限らなかったからな……でもこれも全部俺が安心したいためだ。


「そう、俺が安心したいだけだ」

「わ、分かったから! あ~うぅ……嬉しいけど恥ずかしいっていうか」


 隣を歩いていた綾香が顔を赤くして俯いた。

 徳井だったり中里だったりと遭遇したら面倒だなって、そう思っていたがスムーズに綾香と合流出来た。

 こうして休日に待ち合わせをするのは初めてで緊張するかと思いきや、意外とそうでないことに自分でも驚いている。


(……つうかエロすぎんか)


 正直、綾香を甘く見ていた。

 普段の制服姿が全然目立たない彼女ではあるものの、そんな普段からかけ離れているかのような服装だ。

 ピチッと体の曲線美を隠せない白を基調としたシャツ。

 ムチムチな太ももをこれでもかと晒すホットパンツと……こういうのを綾香は着るんだなと少し意外でもあった。


「似合ってない……かな?」

「え?」

「少し暑くなってきたし……でもそれだけじゃなくて、派手な天斗君の隣に立ってもこれなら大丈夫かなって」

「……そんなことを考えていたのか」


 明らかに同人誌で寝取られそうな文学少女ファッションだけど、こんな格好を選んだのは俺が居るからか……そっか。


「まあなんだ……似合ってないことはないよ。普段の制服姿からは想像出来ない感じだったからな……えっと、凄く良いと思う」

「ほんと?」

「あぁ」


 流石にエロいとは言えなかったが、これはこれで良いんじゃないか。

 とはいえ俺は別に派手な格好は全くしてないんだがな……だって普通に無地のシャツに半ズボンだぜ? お洒落の欠片もないが、デカい体と派手な頭のせいで不良には見えてるけど。


「なら……良かった……ふふっ」

「なんで笑うねん」

「あははっ、ごめんね。そんな見た目の天斗君から出てくる言葉とか、気遣いの視線が面白くて」

「面白いってなんだよ」

「凄いギャップを感じてるってこと。そういうツッコミとか、さっきのなんで笑うねんとか」

「……さよか」

「あ、それもかな」


 もう全部がギャップやんけ。

 ただこのやり取りのおかげで肩の力が抜けたらしく、合流してから緊張していた様子が完全に和らいでいた。


「……ま、良しとするか」

「何が?」

「何でもない。それじゃ、行くぞ~」


 こうして、俺は綾香を伴い行き着けジムへと向かうのだった。

 やはりというべきか綾香の姿……特に歩く度にゆっさゆっさと揺れる爆乳が多くの視線を集めているが、それだけ綾香の胸はデカい。


「っ……」

「ほら、俺の傍に居りゃ大丈夫」

「あ……うん」


 佐助に連れられてそれなりに色んな人間と顔を合わせてきた。

 それによって観察眼が磨かれたのかはともかくとして、綾香に向けられる視線を俺の体で遮り、或いは遠目でも目を合わせてこいつはダメだと思った相手をビビらせている。

 ちなみに俺がこうしているのも綾香は気付いているらしく、さっきからずっと俺の手を握って片時も離れることはなかった。


「ここが俺の通ってるジムだ」

「……ここが」


 三年前くらいに出来た新しいジムなので、建物はかなり綺麗だ。

 高宮フィットネスクラブ――高宮グループだかなんだかは忘れたが、それなりに大きなグループが経営するジムでかなり儲けているらしい。


「このまま受付まで行くぞ」

「う、うん!」


 緊張しているみたいだが、何も心配は要らないぞ。

 俺は何度もここに通っているのもあって受付の人とも知り合いだし、インストラクターの人とも顔見知りだ。


「いらっしゃいませ~! あ、神薙君じゃない!」

「お疲れ様っす。今日も利用させてもらうんすけど、この子の会員証とか諸々お願いしていいっすか?」

「あら可愛い子……もしかしてガールフレンドかしら?」

「そ、その……っ!」


 ガールフレンド……女の友達だからガールフレンドっていうどうでもいい考えは置いておくとして、綾香が完全に動揺してしまっていた。

 その姿は受付の女性も罪悪感を抱いてしまうほどだったらしく、すぐに謝って手続きをしてくれた。


「ごめんなさいね……? 私ったら若い子のこういうのに弱くて!」

「歳取るとそうな――」

「何か言った?」

「なんも言ってないっす! それじゃあ着替えて合流だ綾香」

「あ、うん! あの、ありがとうございました!」


 女性に歳の話は禁句だな……気を付けよう。

 その後、それぞれ更衣室で運動着に着替えてから合流したが……運動着もピチピチで凄まじくエロい。

 まあでもピチピチなのは俺もか……このタンクトップも小さくなってきたし、そろそろ新しいの買うべきかもな。


「わぁ……凄い筋肉」

「なんなら触ってみるか?」

「え? いいの……!?」

「おうよ。俺の成長した証を確かめさせてやるぜ」


 綾香はすぐさま俺の体をぺタペタと触り出した。

 ……心なしか触り方がいやらしいとは思ったものの、相手が綾香ということで気にしないことにした。

 トレーニングルームに着くと、それなりに利用客は居た。

 当然のように大なり小なり綾香へと視線が向けられるが、またもや俺が壁になることで綾香を守る。


「……ある意味、来ない方が良かったかもしれないな」

「そんなことないよ! 緊張する……少し怖いけど、でも天斗君が傍に居るから全然大丈夫!」

「……なら良かったぜ」


 ま、何があっても俺が体を張るだけだ。

 さ~てと……あ、居た。

 目的の人が見つかって手を上げると、向こうも俺に気づいて足早に近付いてきた。


「やっほ天斗」

「おっす朝倉さん」


 長い髪をポニーテールにしているスレンダーな女性の朝倉さんだ。

 この人は俺がここに通うようになってからの知り合いで、ずっとお世話になっている人でもある。


「朝倉さん、今日は忙しそう?」

「特に忙しくないわ。ってその子誰!?」

「……もうその反応はええて」

「あはは、ごめんごめん」


 ペロッと舌を出した朝倉さんにため息を吐き、俺の背で縮こまっている綾香の肩に手を置いた。


「綾香、この人は朝倉さんって言って俺がここに通い始めた時から世話になってる人だ」

「どうも、朝倉咲夜よ。よろしくね?」

「あ、はい……! 音無綾香って言います……よろしくお願いします!」


 うわぁ……めっちゃ緊張してんな。

 けど朝倉さんは凄く優しい人なので、綾香もすぐ打ち解けるだろう。


「綾香に色々教えてあげてくれませんか? 二回目とかなら慣れてるでしょうけど、決まり事とかありますし」

「そういうことなら了解よ。大丈夫よ綾香ちゃん、優しく教えてあげるからね」

「……お願いしまう……す!」

「……この子、凄く可愛いんだけど!」


 ほら、やっぱ朝倉さんなら気に入ると思った。

 とはいえ初めてなのでそこを朝倉さんも考慮してくれたらしく、常に俺の傍で施設に関して綾香に教えてくれた。

 綾香も傍に俺が居るから安心したのもあるだろうが、すぐに朝倉さんに心を開いて笑顔を浮かべていた。


「それで、どうだ?」

「う、うん……まだ……いけるよ!」


 そして今、俺と綾香は二人並んでランニングマシーンに乗っていた。

 軽い筋トレでも綾香はへばっていたが、こうして単純に走るだけならかなり続いている……でももう大分しんどそうだ。


「な、なんで……まだそんな……余裕そう……なの?」

「俺はもう慣れてるからな……てか休んで良いんだぞ?」

「もう少し……もう少しがんばりゅ……!」


 俺もそうだが綾香も汗だくだ。

 ただこういう施設なだけあって朝倉さんはずっと、初めての綾香の様子はジッと見ているし俺だって気を配っている……でもそろそろだな。


「よし、一旦休憩しよう綾香」

「ふぇ?」


 マシーンを止めて休憩に入ったが、綾香が足元をふらつかせた。

 もちろん彼女が倒れたりしないように俺が受け止めたが……お互いに汗びっしょりの状態で密着することになり、何とも言えない状況へとなってしまった。


「はぁ……はぁ……天斗君?」

「おう……すまん綾香、こんな汗だくで抱き留めて」

「……ううん、そんなことない……むしろ……えへへ♡」


 嬉しそうに顔を上げた綾香。

 汗で髪の毛が肌に貼り付き、しんどさもあって若干の涙目……だが浮かべている笑顔がとてつもない色気を醸し出している。

 これは……こんなのが一人で居たら声をかけられるな。

 しかも今は普段の大人しさが完全に失われ、綾香の女としての魅力が全面的に出ている……中里もあんなことを言っていたが、単純に綾香に魅力を感じて声をかけてきたんじゃないか?


「お疲れ様二人とも、綾香ちゃんは大丈夫?」

「は、はい……大丈夫です」


 それからも朝倉さんは付き合ってくれたのもあって、綾香にとって初めてのジムは楽しい経験になってくれたようだった。

 そうしてジムでの時間を過ごした後、外を歩いていた時だ。


「……あ」


 正面から歩いてきたのは徳井とその友達。

 俺と綾香はジムに向かっていた時と同様に手を繋いでいた。

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