綾香の欲望
私はとても引っ込み思案な性格をしていた。
それはずっと私に染み付いているもので、簡単には変えることの出来ないもの……自分から誰かに声をかけることも少なく、満足に話が出来るとすれば昔から幼馴染の慎君くらいなものだった。
高校生になってもそれは変わらなかったけど、困ることはなかった。
誰にも干渉されず、誰にも目の敵にされず、誰かにちょっかいをかけられることもなく……静かに隠れた趣味の一つでもある漫画を読んだりして過ごせればそれで良い……そうずっと私は思っていた。
でも……。
『おい、大丈夫か?』
そんな私の変わらない日々に、一つの変化が起こった。
それこそが彼――神薙天斗君との出会い……私は彼に出会い、彼を知ってから初めて自分から誰かに話しかけたいと……同じ時間を共有したいと願うようになった。
『神薙君……全然印象と違う?』
『えっとだな……まあ、ちょい高校デビューには失敗したけどよ』
私もそうだが、周りも天斗君のことは不良だと思っていた。
私からすればかつての中里君を思い出すようで関わらないようにしていたのもあったけど、だからこそ天斗君を知れば知るほど私は彼のことをよく目で追うようになった。
『おい、その辺にしとけよてめえ』
最初の出会いは、外でまさかのナンパに遭った時だ。
どうすればいいのか分からず、中里君を思い出して体が硬直してしまっていた時に天斗君が助けてくれた。
まさかあの天斗君が……とは思いつつも、私を背に庇ってくれた彼は優しくて、チョロいかもしれないが自分よりも圧倒的で大きな体を持ち、生物としての強さを滲ませる彼に守られること……それを私は心地良いなと思ったんだ。
『あの……ありがとう神薙君』
『いいってことよ、それより何もされてないな?』
私の心配をしてくれた天斗君……この時のことは強く記憶に刻まれているだけでなく、たったこれだけで私が抱いていた天斗君への先入観をこれでもかと払拭してくれた。
『実はさ……かっけえ男になりたいと思って髪とか染めて、んでジムに通って筋トレとか頑張ったんだわ。母さんはめっちゃ良いって絶賛なんだけど、学校だと不良みたいに見られちまってさ』
肩を縮めるように、目尻を落として天斗君は教えてくれた。
正直……正直彼には悪いと思ったけど、私はその話を聞いて凄く笑ってしまって……そのことに天斗君が面白くなさそうに頬を膨らませていたのも可愛くって……そんな天斗君を見ていると、漫画に出てくる実は優しい不良という存在を感じた。
『優しい不良だぁ? 俺は不良のつもりはないぞ全くこれっぽっちも』
『強い奴か弱い奴か、見られるなら強い奴の方が良い。第一印象で相手を圧倒しろって父さんにも言われてるからな……でも本当の俺は小心者なんだぞ?』
私にとって、本当に彼はギャップの塊だった。
この見た目で小心者って本当……? なんて思ったけれど、二人で話す時の天斗君は本当に大人しくて優しくて……それが真実だと分かったし、何より素直に勉強をする姿なんかは可愛かった。
『勉強……勉強か……』
『勉強は嫌いです……嫌いだぁ!!』
『分かった……分かったから! 大人しく教わるから!』
本当に……本当に彼との時間は楽しい。
正直、どうして私はこんなにも彼に関わりたいのか……近付きたいのかってずっと思ってたけど、それはたぶん……私の癖に彼という存在が思いっきり当たっちゃってるから。
「あぁ……天斗君」
私はよく漫画を読む……ちょっとエッチなのも読んだりする。
中でも大人しいヒロインが不良に変えられちゃう話とか、そういうのも割と好き……現実ではともかく、漫画という媒体だからこそ好んでいる。
「天斗君は違うの……他の人とは違うの」
ただ不良に好き勝手されるというのは、妄想の中だけ……現実だとやっぱり女の子として相手には優しくしてもらいたい。
そんな願望を抱く私にとって、天斗君は正に好みど真ん中だった。
彼は絶対に想像なんてしないはず……私が毎晩のように、天斗君を想像して体を慰めていること……学校でも常に彼のことばかり考えていることを。
「それに今日も……」
中里君……慎をイジメていた人。
今日語ったことは何も嘘はなく、彼と二週間付き合ったのも本当で取り返しの付かないことはされていない……まあ当時は中学生だったのもあるけど、今となってはあんな浅はかな選択をした自分が恨めしい。
「しかも結局……慎はそれを知らずにのうのうと過ごしてるし」
慎は幼馴染……それだけだ。
中学の頃までは本当に仲が良かったけど、今は声をかけられたら話をする程度……両親たちは相変わらず仲が良いけどね。
「大きな背中だったな……」
天斗君の背中は大きくて、肩に置かれた手も大きかった。
彼が守ってくれた姿はかっこよかったし、彼の内面を知っている身としては少しキャラを作ってるのかなとも思っちゃって……でも私にとって、今日見た彼の全てがかっこよかった。
「天斗君……いやぁ♡」
あぁまた……今日も私は、寝る前に彼を想って体を慰める。
これはもう我慢出来ないの……天斗君のことを考えると、体が火照っておかしくなっちゃいそうだから。
「全部好きにしてほしい……全部あなたのモノ」
私が想像するのは彼の全部。
傍で浮かべている笑顔。勉強に四苦八苦している困り顔。体育の時に体操服を捲り上げて見えた筋肉……彼に私は、滅茶苦茶にされたい。
「あ……っ♡」
でも同時に、優しくもされたい……。
手入れを怠っていない髪も、まだ成長を続けている大きな胸も、まだ何も許していない綺麗なアソコも全部、私は天斗君に好きにされたいの。
「……ふふっ♪」
あぁ……早く明日になって、また彼に会いたいな。
▼▽
俺は別に、学校では大人しくしている方だ。
遅刻もしないし授業もサボらないし、喧嘩もしないし先生に楯突いたりもしないし……あれ? 俺ってめっちゃ真面目じゃん。
「よぉ天斗! トイレいかねぇ?」
「あん? あぁそうだな……行っとくか」
トンと肩を叩かれ、ちょうど良いなと思い立ち上がった。
俺をトイレに誘ったのは
俺みたいに不良のような風貌だが、悪い奴じゃない。
まあこいつも見た目で損をしているタイプだが、それを気にした様子も全くない。
『俺は水島佐助、気軽に佐助って呼んでくれや! こんな名前だけど、別に武士の子孫とかそういうんじゃねえからよろしくぅ!』
第一声はこんなだったか……中々キャラの濃い奴でもある。
「あぁそうだった。今週の土曜なんだけど、他所の高校の女の子集めて遊ぶ予定なんだわ。天斗もどうよ?」
「……あ~、俺は別にいいかな」
「可愛い女の子居るぞ? おっぱい大きな子も居るぞ?」
「いいよ別に……」
……ちょっと心惹かれた。
佐助はよくこうして誘ってくれて、何度か面白そうだと思って付き合ったこともあるけど、別に怪しい誘いでもないしシンプルに他所の生徒と遊ぶだけだ。
本当に健全な高校生の範囲なので、佐助をきっかけに彼女が出来た奴もそこそこ居たりする。
「ま、来たかったらいつでも言ってくれや」
「おう」
「天斗とは仲良くしておきたいからな」
「今更だけどなんで?」
「普通に良い奴だと思ってるからだけど?」
……本当に、見た目で損しすぎなんだよこいつ。
それからトイレを済ませて佐助と別れたが、その途中で下を向きながら歩いている綾香を見かけた。
そのままだとぶつかるぞ……?
そう思い背後から近付き、トントンと肩を叩いた。
「ひゃっ!?」
「っと、すまん……そんなに驚くなんて思わなかった」
「あ……天斗君」
驚いた様子から一転、俺だと分かると安心したように微笑んだ。
こんな風にコロコロ変わる表情を見ていると、本当に綾香には受け入れられてるんだなと思える。
あまり目のある所で話をすることは少ないが、まあこれくらいは悪くないだろう。
「下向きながら歩いてると何かにぶつかるぞ」
「そ、そうだよね……ありがとう天斗君」
「いいってことよ。俺が単に心配性なだけだから」
「心配……してくれたんだ?」
「そりゃするだろ」
「……えへへ♪」
それだけ仲が良くなったから……な。
さて、早めに会話を切り上げようとした時だった――横から現れるように徳井が綾香の手を取った。
「綾香、早く教室に戻らないと」
「へっ? あ、ちょっと――」
……もしかしてあいつ、誤解してない?
そんなことを思いはしたものの、徳井ってあんな行動が取れるんだなと少し感心した。
だが同時に、徳井が綾香の手を握っているのは……面白くないなって、ほんの少し思っちまった。
【あとがき】
タグを間違えていたので、改めてラブコメで投稿をやり直しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます