どうせなら
俺は今、公園を散歩している。
それにしても、こんなに公園って大きかったっけな?と思っているのは、毎度おなじみの有村翔なのである。休日の朝ごろに関しては本当に人がいないため、何をしても決してばれないと思っているのは俺だけじゃないはず…。
初心に帰れる朝方の景色に溺れるように見惚れていると、ふと、見たことのある人物がこちらをのぞき込んでいるのが目に見えた。
その人物は、一瞬目をそらしたと思えば、観念したかのようにのそのそと影から出てきた。
「…久しぶりだな」
そいつは…以前俺を見た際に目をそらして逃げてきたやつと同一人物であった。そいつの名前は
…今だったら言っても良いだろう。
という訳で、俺と影山は一度、公園のベンチに座ることにした。
「…そっちはどうだ?」
「こっちは…特に…」
会話は続かない。
当たり前だ、久しぶりにあったやつなんかどう対応すれ良いか分からないし、俺ももともとこうして話すようなことが”無かったかもしれない”相手なのだから。
「その…」
影山は何か言いたげだが、勇気をもって一歩を踏み出せない状態でいる。例えるのであれば、挑もうと思ったバンジージャンプ、だが突然怯えてしまうようなものだ。
…言い出したいことはすでに分かり切っている。やはり中学に起きたあの事件の事なのだろう。
「…中学の時は本当にごめんなさい、私…あなたに何もできなかったの…」
…予想通りだ。
中学時代のあの事件を彼女は引きずっているのだろう。正直言えば、俺も未だに思い出すときもあるが、それでも今は今だ。その生きざまを…”どこかの誰かさんが”背中で教えてくれたってのもあるが。
ならば、俺の出す結論は決まっている。
「…いいさ、影山は何も悪くない」
「え…?」
彼女が戸惑うのも無理はないだろう。
だが、悪いのは加害者の奴らや何もしない傍観者なのであって、影山は”止めようと”してくれていた。その事実は変わることはないと思う。
「何もできなかったって言ってくれたけど、俺は影山が何もできてなかったなんて思ってない。むしろ働きかけてくれた方だと思う。だから俺は影山について…いや、この事件をむやみに掘り返すようなことはしないと決めたんだ」
「…何それ」
「…どうせなら、美しくお別れを告げたいからな。変に引きずるよりかはな」
ちょっとキザなことを言ってしまったとは自覚しているが、それでも俺の本心から出ている言葉なのは間違いはなかった。
「…私、今日有村君に殴られる覚悟をもってここに来たの。どうせなら…っていうか、そうしてもらわないと…怖かったから」
「…」
「……でも、確かに有村君の言うとおり、全てを美しく忘れようっていうのも悪くないなって思ったの。でももしそれを自分が許してしまったら、また同じようなことをしてしまうんじゃないかって…」
そういう頃には、影山は涙ぐんでいた。
その影山の涙を流している姿は、情けなく…皮肉にも美しいと見て取れる姿であったのは、今でも覚えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます