いつも通り?



「次回のご予約は◯月△日です」

「おつかれさまでした!」




今日も、梨竹さんは受付で患者さんの対応をしている。

笑顔を輝かせながら――




「…やまさん…高山さん?…高山さん!」


「…はっ!?」


「なにボケーっとしてんのよー、高山さんの患者さん、来てるわよ」


「ご、ごめんなさい!」


笑顔に見惚れていたら、スタッフが現実へと戻してくれた。


そんな慌てふためく私に気づいた梨竹さんと目が合う。



にこっ



なんてかわいい笑顔なんだ……



ぶんぶんぶんっ!

また脳内がお花畑になりそうだったので、頭を強く振り、患者さんのもとへ急足で向かう。







あの夢のような一夜から数日が経った。

ほんとに夢だったのではないか…そう思ってしまうのは、梨竹さんが、まるで"何もなかった"かのように、いつも通りだからである。


職場でしか会うことがないし、ほっぺたぷにぷにとか距離が近いのは変わらずだし、あの夜のことについて話すこともなかった。


やっぱり意識しているのは私だけか…と、落ち込む。あんなこと言われたら嫌でも期待してしまう。

なのに、梨竹さんは今までと変わりのない、かわいい後輩のままだった。






"彼氏より、美穂さんの方が好き"




この言葉が脳裏から消えてくれない。

梨竹さんの口から出るはずのない言葉。

でも、期待してた私が欲しかった言葉。

何度も梨竹さんの声で再生される…




「…もう一回、聞きたいなー」


「なにをですか?」


「ん?…彼氏よr …ぁぁあ!何でもない!」


(あっっぶねーーー)


不思議そうな顔をして首を傾げてるのは、私を悩ませている梨竹さん、本人であった。

本人に言ってしまっては、私の気持ちがばれかねない…!

ギリギリ阻止できた自分を褒めたい。



「美穂さん、最近ずっと上の空ですね、何か悩み事ですか?」


(あんただよっっ!!)


心の中で漫才師かのようにツッコむ。


「あ、いや…何もないよ、ありがとう心配してくれて」


「んー…いつもの美穂さんも好きだけど、ちょっとボケーってしてる美穂さんも好きだな〜」


そう言いながら彼女は、人差し指で私の頭をつんつんしている。


「…っ!?ば、バカにしてるでしょ!」


「してませんよ〜、ふふっ」



なんなんだこの後輩……

"好き"って言ったよね、また。

今はシラフだから本人の言葉で間違いはないんだろうけど…でも、私の気持ちとは違うんだろうなと、一喜一憂する。




いつも通りの彼女。

と、思ってたけどあの一夜以前の彼女より、少し、距離が近づいてる気がする。私の勘違いかもしれないけど……。

もう、期待してもいいのかな?







梨竹さんの笑顔が好きだ。

でも見るたびに、暗い闇に染まってしまうような、そんな感覚になり、心がざわつく…。












彼氏と、別れたらいいのに……













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る