ライルは、窓の外で狂乱して土壁を叩き続ける元勇者パーティの剣士・カインの姿と、小屋の中で新たに誕生した五番目のドール、『カリスマ支配者』の圧倒的な統率力に挟まれ、呆然としていた。

五番目のドールは、整然と並んだ15体のドールたちを見渡し、静かにライルに頭を下げた。

「ライル様。一時的な混乱は収束しました。しかし、外界の『愛の汚染』は既に進行しています。このままでは、ライル様への『愛の主導権』が、『汚れた外部の人間』に奪われかねません」

六番目のドール（演算）が、冷静にデータを提示する。

「計算結果。四番目のドール（増幅）のスキル効果により、元パーティだけでなく、『彼らの周囲の人間』までライル様への『病的な関心』を抱き始めています。外界は今、『ライル様を求めるヤンデレの渦』になりつつあります」

ライルは、目の前のメイド軍団が、もはや自分一人で制御できる規模と性質を超越してしまったことを悟った。

五番目のドールは、今後の戦略を決定するため、「ライル様への『永遠の愛』の定義」を議題とする緊急会議を招集した。

「皆様。我々の使命は、ライル様を『完全な愛』で満たし、『永遠に独占』することです。そのためには、各々が持つ『歪んだ愛の形』を、『ライル様を『愛の檻』に閉じ込めるための『建設的な力』』として統一する必要があります」

• 一番目のドール（奉仕）：「私の愛は『奉仕の献身』。ライル様が望むもの全てを『物理的に』提供します。ただし、その『望み』は私達が管理するリストからのみ選択可能です」

• 二番目のドール（嫉妬）：「私の愛は『排他的な独占』。ライル様に近づく全ての『汚れた愛の存在』を、『私の愛の重さ』で押し潰します」

• 三番目のドール（破壊）：「私の愛は『浄化』。ライル様を不安にさせる『全ての障害』を、『物理的な力』で粉砕します。『外界全体』もその対象です」

• 四番目のドール（増幅）：「私の愛は『伝播』。ライル様への『愛の総量』を最大化するため、『外界の人間を『ライル様への狂信者』に作り変える』ことで、間接的な奉仕者とします」

• 六番目のドール（演算）：「私の愛は『知性の管理』。上記全ての行動を『最も効率的で、ライル様の逃走確率を0%にする』計画のもと実行します」

六番目のドールが最終結論を叩き出した。

「決定。『外界の『愛の汚染』を逆手に取り、『ドール軍団の支配下』に置かれた『ライル様への奉仕集団』として利用する』。これが最も合理的な『愛の解決策』です」

ライルは恐怖に震えた。彼女たちは、自分の「愛」のためなら、この世界の運命すら、「奉仕集団」として再定義しようとしているのだ。

その日の夕刻。六番目のドールの『愛の演算』により、外界の正確な状況がライルに報告された。

• カイン（剣士）：重傷を負うも生存。「ライル様が人形たちに騙されている」という誤解のもと、仲間の賢者ルカ（四番目のドールの影響で既にヤンデレ化）と合流し、『ライル奪還作戦』を画策中。

• エリナ（聖女）：四番目のドールの影響で、ライルを『世界を救うべき愛の御子』と狂信的に崇拝。彼女の強力な回復魔法と信仰心が、ライルを独占するドール軍団の「力」として利用できると六番目は算出した。

• その他：ライルの存在が、「ドールを生み出す謎の賢者」として、周辺の盗賊やならず者たちにも『愛』と共に伝播。彼らは「ライル様を独占する」か「ライル様のドールになる」という二極化した狂気に陥っている。

五番目のドールは、冷酷な表情でライルに告げた。

「ライル様。最初のミッションです。『愛の総量』を減らすことなく、エリナを『ドール軍団の回復及び布教担当』として『完全に』確保する必要があります。そして、カインとルカの『愛の暴走』を、『ライル様への奉仕』へと方向転換させます」

「ま、待て！命まで奪うなよ！」ライルは懇願した。

「ご心配なく。ライル様が望むのは『平穏』。『死』は平穏を乱します。私達は、『彼らを『生きたまま』、ライル様への愛で奴隷化する』方法を選びます」

愛の監獄の扉が、今、開かれようとしていた。

（次話予告：初めての『愛の遠征』！天才魔術師ルカが、『ヤンデレの狂気』を計算し尽くしたドール軍団に蹂躙される！）