埋めた仔犬が蘇ったところから、物語は始まる。
廃トンネルと雑木林の向こうの秘密の空き地にぽっかり開いた穴。
そこに死体を埋めると、死者蘇生が叶ってしまう。
――形ばかりの死者蘇生が。
自分だけの秘密を兄と共有した先に起きた悲劇。
故人を悼み、供養する目的で行われるはずの埋葬が反転し、蘇生のための装置と化して継続利用される歪さ。
生前の台詞が際立たせる、似て非なる者たちの差異。
かと思えば、生前と同じ癖が思考と情緒を掻き乱す。
すべての要素が絡まり合い、主人公と読者を果てのない悪夢へと引き摺り込んでいく。
何度も死体を埋めた。土を被せるたび、罪を重ねていく。
そんな俺が安寧を得ることは出来るのか。
幼かったある日、野良の仔犬を巡って兄と
対立したが…。それが結果として今も全てを
雁字搦めにしている。
兄の想いを知ったところで、もう既に
後戻り出来ない程の
何事もない平穏な
日常が。
いつの間にか異常な状況を
凌駕する。
淡々と語られて行く凶事。背景にある
家庭の事情。幼さ故の言葉足らずと想いの
齟齬が
とある不穏な 奇跡 を齎す。
昏い平穏の中、空虚な安堵に揺れる心。
その筆致の妙味に思わず引き込まれる事
請け合い。哀しみと憎しみと愛しみ。
希望と絶望の曖昧なあわいを見事に描く。
兄とポチと幸せな日々は、其処にある。
土塊で造られた ナニカ は
今も世に紛れている。