幕間:夢

ある日、世界は気づいた。


自分たちの眠りに差し込む映像が、見覚えのない土地や言葉、存在したことのないはずの歴史に満ちていることに。


それはただの幻想ではなかった。


別の世界から「夢」が丸ごと転移してきたのだ。




最初は、奇妙な夢を見たと笑い飛ばす者もいた。


だが夜ごとに繰り返される「他世界の夢」は、次第に人の判断を侵食し始めた。


ある人は目覚めてもなお、どちらが現実でどちらが夢だったのかを確かめられず、


またある人は、見知らぬ夢の論理を現実に持ち込み、計算や感覚を狂わせていった。




夢は決して嘘ではない。


それは「もう一つの世界での夢の経験」であり、確かにそこで誰かがその夢を見た痕跡だった。


ゆえに人は、惑いそれを単なる幻覚と切り捨てられなかった。




こうして現実と夢の境界はぼやけていった。


それは物理的な崩壊ではなく、外から流れ込んだ夢が、判断の座標軸を静かにずらしたからだ。


人々は「今見ている光景が、現実か、それとも流入した夢か」を常に疑わねばならなくなった。


夢を受け入れて世界を拡張すべきか、


それとも夢を拒んで現実を守るべきか。


その選択さえも、すでに夢によって惑わされているかもしれなかった。

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