空間・存在(その物)case3.周期的な存在や空間が存在する世界
この世界の“存在”は不確かだった。
人も大地も、確かに「ある」はずなのに、境界はぼやけ、しばしば輪郭を失った。
大樹は霞のように森へ溶け込み、石は土に紛れて見分けがつかなくなる。
何かを「ここにある」と指し示すことすら難しかった。
空間もまた粗雑であった。
距離の尺度は拡大と縮小を繰り返し、近いと思えば突如として遠ざかり、
山と山は重なり合い、川は流路を曖昧に漂った。
大地と空の境も不確かで、すべては重なり合う雲のような世界だった。
そこへ、異世界から――「存在(その物)」と「空間(その物)」が転移した
新たな「存在」は曖昧を拒み、ものごとを確固として定めた。
岩は岩に、大地は大地に。「ある」と「ない」の境界が刻まれ、
消えかけていた輪郭は、鋼のように固まった。
同時に「空間」が到来し、位置と距離を鋭く区切った。
直線は大地を走り、角度は天と地を隔てた。
人は初めて「存在」とともに“ここ”と“そこ”を区別でき、
世界は直線的な座標軸を持った。
だがその融合は滑らかではなかった。
粗い格子と緻密な格子がぶつかり合い、
家は半分だけ引き裂かれ、
人の影は二重に揺らめいた。
大地は歪み、亀裂は断層のよりはるかに広がり続けた。
そしてただ「在るか在らぬか」という峻烈な境界と、
「ここかそこか」というねじ曲がった冷たい座標だけが支配したのだった。
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